平成10年度第3回産学研究会・交流会 開催日時:平成10年12月16日(水)14:00〜16:00 於:岡崎商工会議所中ホール 出席者 :42人。 コーディネーター:草間晴幸 大阪大学大学院助教授 同 :服部良男 岡崎商工会議所情報化委員会委員長 内容:以下の通り。 「草間」 本日は産学研究会の第3回目として、愛知産業大学短期大学教授の生駒正文先生をお迎えして、「知的所有権とは、−会社が創り、会社が守る」と題してお話しをうかがいます。では先生よろしくお願いいたします。 「知的所有権とは、−会社が創り、会社が守る」 講師:愛知産業大学経営研究所・愛知産業大学短期大学 教授 生駒正文氏 今日は知的所有権について、会社が創り、会社が守るという観点で初歩的な理解をしていただくよう説明をしたいと思います。 知的所有権の概要、工業所有権と著作権の違い、知的所有権保護の必要性などを述べた後、知的所有権クイズを一緒に考えまして、次に知的所有権を全社的に理解する仕方、社内発明・職務発明・職務著作などを解説し、最後に我が大学の産学連携のあり方を説明いたします。 まず、知的所有権とは人間の知的創造活動によって産み出された産物であるアイデアや工夫などを保護する総称です。 従って知的所有権は財産権の一種で、目に見える有形の経営資源(土地・建物・電気製品・車)などと同様に目に見えない無形の経営資源として相続の対象になるものです。それぞれの権利によって保護対象・保護期間などが異なっています。 特許権とは、産業上利用できる発明のことで単に学術・実験目的だけにしか使えないものは対象外です。新規性・進歩性のあるものであることが必要で、出願して必ずもらえるものではありません。 審査請求をしてまず1〜3年位、長い場合は5年かかることもございます。 注意すべきは展示会に発表したり販売したりすると新規性が無いと判断されてしまいます。特許庁長官が指定した博覧会や展示会などの場合は認められるケースもありますが。 特許の保護期間は出願日から20年です。 実用新案は産業上利用できる考案で新規性・進歩性があるものということで、特許権と同じですが、無審査主義であるため不安定な権利であることを承知しておく必要があります。 保護期間は出願日から6年です。 意匠については工業上利用できるデザインの創作、美観を起こさせるものであることが前提で、工業上利用できるということは大量生産できるものであることが必要です。 保護期間は設定登録から15年です。 商標は商品・サービスに使用する標章で文字・図形・記号・立体的な形状の標章などで、サービスにつけるマークなども認められています。 保護期間は設定登録から10年(更新可)です。 著作権は文学・美術・学術・音楽・コンピュータソフトなどの範囲の創作物で保護期間は死後50年(登録不要)です。 最近の問題としてホームページに画像や印刷物、写真・漫画のキャラクター、タレント、映画のシーンをはじめ音楽なども取り入れるケースが多い訳ですが、著作権には十分な配慮・注意が必要です。 あくまで、ビジネスとしてホームページを作る場合の問題ですが。 もし、こうした著作権のあるものを使う場合には権利者団体に連絡して許諾を取得する必要がございます。 最終的に著作権者がわからない場合は文化庁に裁定請求をして長官の許可が出れば使用可能となります。 裁定には1〜3か月かかり費用は1万円ほどで済みます。 不正競争防止法については、競争秩序の維持を目的に作られているもので、商品は3年間保護されます。 また、半導体の回路配置登録は10年間保護され、植物の新品種保護のための種苗法などもございます。 こうした知的所有権の保護の必要性について説明しますと、知的所有権を生み出すためには、人間の知恵や能力が必要で、その上、労力、資本がかかり、権利として保護しないと創造的な作業をする人間がいなくなってしまいます。 逆に、知的所有権を保護し創作者の経済的権利を守ることで、新たな創作環境を守り、一方利用者がその新たな創作物を公正に利用することで、社会の発展を図ることが出来るということになると思います。 次に知的財産権クイズに関連して、偽ブランド商品は輸入禁制品です。一方真正商品の並行輸入に対して、正規輸入代理店が商標の独占的使用権をもって訴訟を起こしたケースがございましたが、並行輸入は商標の侵害にはあたらないという判例が定着してきました。 さらに、特許品での同様なケースは平成9年に1例だけ並行輸入は侵害にあたらないという判例が出ました。しかし、今後どういう方向で定着するかはわかりません。 「草間」ここで少し休憩いたしますが、これまでのご説明の中で質問がございましたらお願いします。 Q.ホームページに女優の写真を使うのは著作権侵害ということでしたが、似顔絵ではいかがですか。 A.著作権に触れますね。ただし、死後であって自分で再現するのであれば使用可能と思います。活躍中の場合は似顔絵でもパブリシティー権侵害になります。 Q.データベース、すなわち住所とか電話番号とかを集めたものは著作権が発生しますか。 A.著作権が認められます。 Q.特許、意匠の登録は更新できないということでしたが、それが過ぎたら他の人が登録できるのですか。 A.それは新規性・進歩性が無いので出来ないことになります。 Q.特許申請などの書類作成は大変な手間が必要ですが、規制緩和で少しは簡略化されないのですか。また、弁理士に依頼せずに、個人で特許申請などできるでしょうか。 A.私は大学の法学部を出て、マルマンへ入社しすぐ申請書を書きました。特許公報を見ながら書けば時間はかかりますが書けると思います。ポイントは権利範囲を文章でどううまく書くかです。書類が簡単にならないかという面では、図面は必要ですし、特許庁もこれ以上簡略化することは考えていないと思います。 5分休憩 では後半をはじめます。企業経営における知的所有権の重要性を全社的に理解してもらうことについて、先程も少し触れましたが、マルマンでの発火石ライターから電子ライターの開発に携わった経験をお話ししましょう。 まず、新製品企画の観点は自社の蓄積した技術や販売ルートを活用できることが重要です。マルマンの場合は、当時の主力製品である時計バンドの販売ルートを活かした新商品開発を考えました。 特許情報を10年間分ほど詳細に調査して設計部に伝え、設計ができた時点で基本特許出願を済ませます。 ここでのポイントはその範囲で具体的に書けば書くほど、範囲が限定されることに注意してください。試作後他社特許対策や改良を加え、意匠や商標登録をはじめ周辺の特許網を構築し類似製品対策をします。 こうして、新商品を作り上げても本当に市場を独占できるのは3〜4年にすぎません。 とにかく、特許情報をくまなく調査することにつきると思います。この地域では名古屋商工会議所の発明協会や刈谷の県工業技術センターで簡単に見ることができますので活用してください。 ところで経営トップ自ら知的所有権の重要性を認識し、基本方針を明示することが必要ですが、そのポイントとしては1.オリジナルに挑戦する 2.質の高い特許出願を行う 3.十分な特許調査により権利侵害を防止する 4.特許情報の有効活用をはかる 5.強力な特許権を取り、権利を活用する 6.国際的な対応をはかる の6点で、一般社員がアイデアや工夫を積極的に提案できるような雰囲気づくりも大切です。 社内発明については特許法では発明者主義をとっており、自然人たる人間が権利を有することになりますが、法定通常実施権と言いますが、権利は従業員に帰属するが会社は自由に職務発明を実施することができます。 また、社内規定を設けることにより、会社は職務発明に関しては予約継承できるとなっています。一方、従業員は職務発明を会社に譲渡した時は、会社に相当の対価を請求できることになっています。 また、法人が直接著作権者になることを認めているのが、例えば新聞記者が書いた記事や、公務員が書いた白書などです。 最後に来年度からの愛知産業大学経営研究所の産学連携のあり方については、各企業からの講師依頼、共同研究、委託研究などを受け付けるほか、特許出願や法律相談などにものっていきたいと計画しております。各企業の皆さんからは、どしどし電話なりでご連絡いただければ幸いです。時間も参りましたので以上で終わります。 「草間」ご質問がございましたらどうぞ。 Q.意匠についてですが、デザイナーに依頼して商品を作る場合その意匠権はどちらに属しますか。 A.契約書を作ってどちらに帰属するかはっきりしておく必要があります。 「草間」このあと交流会も行いますので終了させていただきます。この事業はコーディネート活動支援事業によるものですが、岡崎大学懇話会も共催者ですので幹事の木村先生から一言ごあいさつをお願いします。 木村:岡崎大学懇話会は初年度でどう事業を行っていくかが課題でしたが、草間先生のご指導もあって、今回で3回目の産学研究会を開催することができました。 1回目は愛知学泉大学において開催し、2回目は岡崎学園国際短期大学のお二人の先生を商工会議所にお迎えしてお話しをお聞きしました。 1回目のように企業の方が直接各大学へ出掛けていただく機会も設けて身近に感じていただくことも必要だと考えておりますので、今後とも是非ご参加いただきますよう、よろしくお願い申しあげます。 16:00(終了後、交流会を開催) *第4回産学研究会は1月20日(水)午後2時〜4時まで岡崎商工会議所2階中ホールで開催する。 以上 |