第1回産学研究会・交流会 会議録





平成10年度第1回産学研究会・交流会

開催日時:平成10年10月21日(水)13:45〜16:00
会場:愛知学泉大学岡崎キャンパス 1号館第3会議室
出席者 :36社、49人。
コーディネーター:草間晴幸 大阪大学大学院助教授
アドバイザー:木村剛也氏 岡崎大学懇話会幹事
内容:以下の通り。

「草間コーディネーター開会あいさつ」
 雨にもかかわらず、多数のご出席ありがとうございます。本年度、岡崎商工会議所では中小企業事業団の補助金を得てコーディネート活動支援事業を開始しております。これは、キックオフセミナーと月2回の新事業創出研究会、月1回の産学研究会の3本柱を事業としており、キックオフセミナーは奥野名大経済学部長の基調講演と岡崎大学懇話会の四大学の学長がパネラーになっていただき『21世紀に向けての産学協調活動のあり方』と題してパネルディスカッションをしていただきます。岡崎での産学研究会は本日が初めてです。30年前のアポロ11号のアームストロング船長の言葉を借りるのであれば、今日の第1歩は小さな1歩ですが、将来大きな1歩となることを期してあいさつといたします。

「木村大学懇話会幹事あいさつ」
 本日は雨のなか、愛知学泉大学・短期大学にお越しいただきありがとうございます。本学はここに大学と短期大学が、豊田市にも校舎がございます。今年から寺部学長は「地域とともにつくる大学」を目標に掲げておりますので本日ここでこうした催しが開催でき光栄に思います。今後とも地域の企業の皆さんにはよろしくお願い申しあげます。

「事務局」
 本日の講師小川先生をご紹介いたします。先生は名古屋大学の経済学部をご卒業後、名古屋市信用保証協会専務理事、名古屋市中小企業指導センター所長などをご歴任され、名古屋市緑区長も務められたという、大変ユニークなご略歴の持主でいらっしゃいます。アメリカの産学連携に関する詳しいレポートも発表されており、今日は大変期待をしております。では、小川先生よろしくお願い申しあげます。

1.講演 「経営革新と『連結の経済性』」
   講師:愛知学泉大学家政学部 教授 小川宣久 氏
 ご紹介いただいた小川です。本学は2期制をとっており今は後期が始まって学生が登校しておりますが、最近の学生はシャツをズボンの中に入れず、だらしのない格好の学生ばかりですが、着物で言えば着流しのスタイルで彼らにとっては着崩れの美学ということなので、ご容赦ください。また、ペンケースは忘れても携帯電話は絶対に忘れずに持ってきており、それには紐が付いているので、お尻のポケットから、本来人間には無いしっぽが生えていますが、これもご容赦ください。

 とはいえ、三河の子弟が多いので、根は真面目で実直な学生ばかりで、企業の皆さんにおかれましては、「ひらけゴマ」という求人情報誌のタイトル通り、学生に対しては開けゴマの精神で迎え入れていただければありがたいと思います。

 本日は、ネットワークの経済性についてお話をさせていただきます。
 昨今は非常に景況が悪い状況です。「がけっぷちの日本経済」と日本経済新聞では厳しさをアピールしてきましたが、あまり暗くなるといけないと感じたのか最近は、「日本経済の再生」と題して連載を始めました。こうした状況は学校で研究などしている我々よりも企業の経営に携わる皆さんの方がよくご存知のことと思います。

 一昨年あたりまでは、バブル後から何とか回復してまいりましたが、消費税の増税、医療費のアップ、そして特別減税の廃止や健康保険料のアップなど9兆円の国の吸い上げで、家計にとっても企業にとってもピンチに陥りました。つい先日発表された8月の家計調査では消費は先年の10月以来ずっと前年割れを続けています。これは、この調査が始まって以来の出来事です。また可処分所得のうち消費に回る平均消費性向は今や68.5と想像を絶する消費の沈滞です。GDPの60%が消費に回ると言われますが、その低迷に加え、財政支出(GDPの18%)も押さえられているので、需要面でも大変落ち込んでおります。供給側にとっては非常に不都合な状況です。

 消費だけでなく、企業の投資マインドも沈滞ムードで、山一などの破綻による金融不安、信用の大収縮が起こり、貸し渋りも発生して皆さんのお手元の資金が十分でなくなってきました。デフレマインドも起こり、信用収縮に加え過剰な生産能力との需給ギャップが顕著となってきました。堺屋経済企画庁長官によれば需給のギャップは20〜30兆円あるということで、これが解消されなければ景気の回復は見込めません。
 そうした状況で、皆さんの企業は大変がんばってみえるので、まことにご同慶の至りですが、予断は許しません。

 さて、本題に入りますが、今日お話する順にレジメを用意しました。
 商品には、よほどの伝統的商品でなければ概ね、成長→成熟→衰退のライフサイクルがあります。企業が持っている商品が成熟化する前に経営革新をしなければなりません。そのための手段はどんなものがあるかという質問をよく受けますが、1.新しい商品の開発 2.新しい生産方式の開発 3.新しい原料・半製品の発見 4.新しい市場の発見 5.新しい組織の実現の5つにつきると思います。
 この話の基はケインズと並ぶ著名な経済学者のジョセフ・シュムペーターの「経済発展の理論」という著書でこの中の4つをあげています。イノベーションという言葉を世に紹介したのも彼ですが、古い物を壊して新しい物をつくりあげていくことがアントレプレナーだと言っています。

 さて、新しい商品とは、古くは3種の神器と言われたテレビ、洗濯機、冷蔵庫で、次の時代は3C、クーラー、車、カラーテレビで、最近はパソコンとその周辺機器、ソフトウェア、携帯電話と言えるでしょう。しかし、成熟化した社会ではそうした商品もなかなかございません。一方、サービス面では、宅配便がまさにサービスの新商品開発で成功した最たる一例でしょう。

 新しい生産方式とは生産技術とも考えられ、これからは5年先・10年先を見据えた未来技術をマーケットプルの考えで生産技術を開発していくことが大切です。
 3番目の新しい原料とは、ファインセラミックスや新素材とかを使って我が社のプロセスに取り込んでいくことが革新につながります。
 新しいマーケットづくりとは、これからの時代のキーワードは環境・少子高齢化・医療・福祉などで、こうした部門ではマーケットが無限に拡大しそうです。

 最後の新しい組織の実現とは、まさに今日私に与えられたテーマですのでこれから本題に入ります。
 大量生産の時代はニーズも他人並み消費で、需要は均一・均質でスケールメリットを狙って作れば売れる時代でした。オイルショック後は大衆の時代から分衆の時代、工業化社会から情報化社会への変化の時代とも言われ、既に消費者は欲しい物はすべて買ってしまい、他人と差のある商品を求めるようになりました。スケールメリットからスポークメリットへの変化とも言え、範囲を広げ、多角化が求められるようになってきました。

 これは、「規模の経済性」から「範囲の経済性」への拡大と言えるものですが、この経済性の追求では、企業内の資源を「共通」生産要素として活用する、いわば「コスト意識」を重視した内部資源の活用にとどまり、外部の生産要素を利用することは出来ません。そこで、いよいよ到達するのが、商工会議所が進めているように、企業外の資源を活用し、コスト削減を超えたシナジー効果がアウトプット面からも得られ、そのマーケットもいただいてしまおうとするのが「連結の経済性」です。「連結の経済性」は、ネットワークという形をとった主体連結型対応を狙いとするもので、多角化対応とは違っていわば「業際化」による効率を追求するものです。つまり、他の企業や組織が持つ外部資源を活用する利点の追求にあります。

 さて、新しい組織の実現には、異業種交流という有効な手段が一つあります。古くは昭和46年に産業構造審議会が異業種交流をとなえ、昭和56年には異業種交流プラザが出来て中小企業事業団から補助金が出るようになりました。63年には中小企業融合化法というその成果について様々な特典を与える法律が出来、そして今は中小企業創造的活動促進法に受け継がれております。

 異業種交流とはの定義は2ページに紹介しておりますが、中熊さんという方は、「新製品や新市場を開発することによって新分野への事業転換を図ろうとするものである」とまで、言いきっています。
 現在、異業種交流は全国で2,900グループありますが、参加の心構えとしては、1.目的を明確にする。2.自社の課題・問題点はきちんと提示する。ギブアンドテイクでなくギブアンドギブンの精神で。3.即効性は求めない。4.自社の経営理念・企業使命をきちんと踏まえて参加すること。などがあげられます。そして、成功例からみた3つの原則は、1.信頼の原則。2.自由の原則。3.平等の原則。があげられます。  また、2,900のグループがどんな成果をあげているかは、中小企業事業団の調査によれば、編成期の活動グループが67%、開発期のグループが17%、事業化まで進んだグループが8%、市場化まで達したグループが7%ということで、一方動機・目的がはっきりしているグループだけの集計では、編成期のもの20%、開発期のもの41%、事業化のもの20%、市場化のもの18%となっています。

 異業種交流の活動プロセスと成果は2ページの下欄に載せていますが、これは日本学術振興会議の報告書の一部です。編成期の活動から醸成期の活動さらに展開期の活動と分類するとステップを経るに従い突っ込んだ情報交換がなされ、運が良ければ醸成期の段階から新製品開発が行われることもあります。共同受発注やマーケットの交換・技術提携などにも発展し、どんどん個別成果も出てきます。最終的には共同成果、私の言葉で言えば連結の成果が目標となりましょう。

 3ページは異業種交流による製品開発の流れを示した具体的なものの一つです。
 その前に我々のテクノ・プラザでは成果はあがっているのかというご質問も良く受けますが、個別成果はあがっていますが、全体としては開発の一歩手前と言う状況です。しかし、これとは別に5つのグループをお世話していますが、3社が成果をあげています。例えば、遠赤外線業務用魚焼き機は、セラミックの技術と金属の溶射技術、コンベア技術、魚種ごとの焼き加減のデータを融合化して開発した「遠赤2刀流」という商品です。中小企業事業団が400種の融合化の成功事例を紹介していますがこの事例も含まれています。

 異業種交流の第1歩はテーマ捜しですが、6ページにご紹介しているように直感的な判断で評価するチェックリストがあって点数化し、平均が2以下であれば製品化は断念、2程度ならば再検討、2を大きく超えれば開発ステップへ進むことになります。ここでは、さらに情報収集やマーケティング調査、専門家の意見などを聞いて判断します。開発段階前の費用負担や開発契約の締結方法なども詳しく事前に決めておかなければなりません。

 生産体制には1.生産企業は、当該異業種交流グループの了承のもとに、おのおの企業が役割を分担して生産を行う。この場合いずれか1社が代表して窓口となる。2.生産企業内のリーダー企業が主体的に生産を行い、他の企業は協力企業として生産に参加する。3.合弁企業など、別に企業体を組織して、その名と責任において生産を行う。の3つをあげています。出荷価格や販売体制、販売方式についても事前に十分検討しておく必要があります。

 最後にまとめとして、ロジャースというアメリカの社会学者の「中小企業の成功のセオリー」という著書から、私と同期の小川英次さんが紹介した言葉を贈ります。「企業とは、常に経営者たる者変化を恐れてはいけない。」「人・組織・技術・市場・生産方式の変化を起こして、それを成就する経営者であれ。」

 まさに、スモールイズビューティフル、どしどし変化を起こしてそれを成就されることを祈念して本日の話を終わりといたします。

2.学内施設見学
3.交流会

  16:00終了
                                           以上                                        






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