第2回バーチャル・ユニバーシティ研究会議事録



第2回バーチャル・ユニバーシティ研究会議事録
日時:平成11年12月4日 13:00〜17:00 出席者18名
会場:岡崎商工会議所402会議室


開会挨拶 草間コーディネーター
 第2回バーチャル・ユニバーシティ研究会を開催させていただきます。本日は、地域活性化のために活躍して頂いております、主要なメンバーの方に集まっていただきました。バーチャル・ユニバーシティー研究会は、今年度コーディネート活動支援事業の4本柱の内の1つであり、主題目は、通信制大学院の設立準備でありますが、その根底には、地域活性化という大目標があります。その地域の活性化と産学連携についてというテーマで、北海道東海大学の川崎一彦先生と、イギリスのノッティンガム大学の崔宏昭先生にご講演をお願い致しました。宜しくお願い致します。

第1部:講演
1. 講演 その1「地域の活性化と産学の連携について ― ノッティンガム大学の試み ―」
講師 ノッテインガム大学 助教授 崔 宏昭 氏

 今日は、今年の夏から発足したノッテインガム大学の「起業と革新のための研究所(Institute for Enterprise and Innovation)」について、その成り立ち、動機、目的をお話し、岡崎のコンソーシアム、北海道の方にもご協力頂ければということでお話をしたいと思います。
 まず、研究所設立の動機をお話致します。ご存知のようにヨーロッパは、経済の統合はかなり進んでおりまして、経済だけでなく、政治とか防衛等も統合して行こうということになっていて、その為にいろいろなことが起こっています。
 経済の統合と同時に、ビジネスの国際化とか、人材の流動化が起きている。それと共に、企業とかの構造がどんどん変わってきている。その構造の変わり方も地域のほうに非常に影響が起きていて、それが問題となっている。そうしたことが地域の活性化をしようという目的・理由になっている。
 その例として、ノッティンガム地方は、元々炭坑が多く、炭坑の町といわれておりました。それが、ヨーロッパの経済の統合が進み、ヨーロッパの安い石炭が入ってきて、もう採算が合わなくなり、炭坑がほとんど潰れてしまう。このようにEUの統合による経済の競合で企業、経済の構造の変化をもたらしている。
 では、それをどうしたら良いか。その為には、地域の活性化をしなければならない。地域の活性化を進めるに当たっては、EUも手伝ってくれるし、イギリス自体も関与してくれる。今年の4月に発足したリージョナル・デベロップメント・エージェンシーもその目的の為のものであり、地方政府も応援する。もちろん大学もそれに一役買いたいと思っている。
 地域の活性化とは何をすることかというと、第1に、地域の競争力をつけなければならない。競争力をつけるのに何が必要かというと、まず、生産性を高め、その地域でのイノベーションの質を高める。スキルや教育水準も高めて行かなければならない。
 最終的に競争力は、GDP(Gross Domestic Product)やGVA(Gross Value Added)で計られるのですが、それをもたらすにはやはり、イノベーションが必要となります。イノベーションはR&Dにどれだけのお金を企業が使っているか、どれだけパテントがあるか等によって計られる。それでは、スキルは何で計られるのかといえば、どれだけの人が高等教育を受けているかという比率で計られる。生産性は、就業率が大きな指標となるわけです。
 ノッテインガムの周りはミッドランド・エリアと呼ばれ、そこでは、海外からの投資を導入する為に、どのようにインフラストラクチャーを整備するかという問題も出てきます。こういうものを整備することによって、競争力をつけ、地域の活性化につなげようということです。
 それでは、イギリスと、他の主なEUの内の国とを比べ、ベンチマークとなるような率はどのようになっているのか。フランスとかドイツは、イギリスから見ると競争相手とされておりますが、GDPやR&D支出、高等学校を終了する率、GDP比の税や社会保障負担等は、イギリスはフランス、ドイツより低く、EUの平均よりは高い。一方、イギリスの失業率は非常に低くて、また、海外からの直接投資は高水準となっており、そういう面では、イギリスは高い競争力を持っている。
 次に、ノッティンガムが入っている地域であるイースト・ミッドランドについてお話します。最近出来たイースト・ミッドランド・デベロップメント・エージェンシーの対象エリアは、若干その対象エリアに違いがありますが、この地域には、ノッテインガム、リンカーン、ダービー(トヨタのプラントが立地している)などがある。
 この地域はどのような歴史的、経済的背景を持っているかというと、イギリスの中では地理的には中心に位置し、ロンドンから外れているので、人件費が比較的安い。州全体で400万人程度の人口を有し、特に、製造業が盛んですが、従来の主要産業である石炭産業や繊維産業は衰退の道を歩んでいる。この地域の競争力をイギリスの中で比較すると、GDP対比の資本の比率、労働生産性、R&D支出の比率、高等教育就学率などは低く、就業率や海外からの直接投資は高い水準にある。
 では、これらを踏まえて、地域としてどのようなことを行えば、地域の活性化につながるのか。この地域の活性化政策としては、第1に、インフラストラクチャーを充実させ、海外からの直接投資を更に増加させる。もう1つはスキルの向上で、大学や専門学校の就学率を高めなくてはならない。しかし、就学率を上げるだけではだめで、就業者の再教育も必要となる。
 それと、最近イースト・ミッドランド・デベロップメント・エージェンシーが発表した政策では、海外からの直接投資の増加、スキルの向上に加え、インフォーメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジーを使うことによってビジネスの向上に努め、地域の活性化につなげることと、もう1つエンタープライズ・イノベーションが挙げられている。
 イギリスのブレア首相は、「アメリカがやっている最良のものとイギリスの現状を比較したうえで、良いものを取り入れなければならない。」といっており、それが、白書にもうたわれている。今年の初めになって、イギリスの通産大臣が、サイエンス・エンタープライズ・チャレンジというファンドを創って、大学(イギリスには約120の大学がある)の学長を集めて、「大学で起業家育成を行なう環境を創る事(学生のみに止まらず、社会人も対象とする)」、「大学内の研究成果を、いかに実用に結びつけるか」についての基盤をつくりなさい。そして、この2つについての提案書を書きなさい。最終的には8つを選び、5年間で全体で2500万ポンドを支出します。目標はMIT(アメリカのマサチューセッツ工科大学)です、とはっきり謳っている。私もこれに参加して、第1次提案書提出の時点で、川崎先生にお会いして、これがうまくいったら宜しくとお願い致しました。
 この提案書では、ノッティンガム大学は、イギリスの大学の中でトップ10にはいること、ビジネス・スクールでは既に起業家教育を始めていること、国外(アメリカ、ヨーロッパ、日本)にそうしたネットワークを持っていること、等が書かれている。
目的(目標)としては、
@ 起業家育成のための研究所を設立する。
A 大学での研究成果を商業化するための基盤を形成する。
B 起業家教育の為のコースを学部とともに大学院にも創る。
C 国外で行なわれている成功事例を発見・導入し、それを実際の企業の中でプロジェクトとして実践する。
D 研究所にイノベーションチームを創り、大学内の研究成果の商業化に向けて、発足したばかりの新しい企業と一緒にやっていく。
E 少なくとも5年間の政府支援がある訳ですが、その間に、常に地域と地域の企業の競争力強化に向けて、外国と比較し、どのようにこの地域が発展してゆくかを見てゆく。
F 5年経ったら自力で研究所が運営できるような基盤を形成する。
具体的目標としては、5年間のうち研究所は、
@毎年150人の起業家を育成する。
A毎年100件のプロジェクトに関与してゆく。
B1700人の学部の学生、500人の大学院生に対して、起業家教育を行なう。
C30以上の新しいビジネスを創る。
D5年間に530万ポンドの資金を投入する。
Eこの研究所の活動について、国内の20大学、国外の40大学の活動との比較を行なう。
研究所の活動指針は、従来、大学は、すぐに利益に結びつかない教育、企業にとってすぐに活用できない研究、最近では、教育と研究の統合等を行なってきた。そこに、新しい理念として、実際の利用価値が見出せ、起業家の活動に有効に結びつく手法や、起業につながる応用研究活動を推進すること等を加え、国内、国外にわたって活用し、又、地域の活性化を考え実現する。
国際的な連携に関しては、アメリカとは起業家教育が進んでいるのでその面で、ヨーロッパ(オランダ)とは大学内の研究成果を商業化することが進んでいるのでその面で、日本やヨーロッパとは地域活性化に起業家育成と革新の手法がどのように活用できるかについて、積極的に連携しその成功事例を学び事業成果につなげて行く。
この研究所の事業活動のパートナーとして、100以上の企業が参画する。
今日は、最初に、イースト・ミッドランドでどのようなことに取組んでいるかをお話し、それを分析し、地域活性化の為にどのようなことをやってゆくべきかを述べ、ノッテインガム大学にエンタープライズ・アンド・イノベーション研究所が出来た目的をお話し致しました。最後に、岡崎や北海道では地域活性化の研究や具体的な取組を強力に進めているが、これと、ノッテインガムでの取組がどのように連携できるのか、どのような形で支援してもらえるのかについてご意見を頂き、お話しを終えたいと思います。


質疑応答
Q.競争力強化については、イギリスの中での競争力か、EUあるいは世界を想定しているのか。
A.EUをターゲットとしております。経済的には、イギリスの国という概念はなくなりつつあります。
Q.特別なセグメントを決めてあるのですか。
A.特別なインダストリーは、例としては出てくるが、決まっている訳ではありません。地域を見て、どのような問題があるか把握して、強いものは更に伸ばし、弱いものは補正・強化するためにどうすれば良いかを考えます。競争力については、ヨーロッパで売れないということは、その商品・サービスが売れないということです。イギリスだけで考えていてもどうしようもない訳で、ヨーロッパ全体の中での競争力を常に考えてゆきます。
Q.そこに良い循環と、投資環境があれば、トヨタが入ったように世界からこのミッドランド地方にいろいろな企業が入ってくるし、そこに中小企業が育つし、雇用が生まれてゆき、そこの下の産業が育ってゆくということになるが、究極的なものは、地域の人々の生活がどういう風になることを目的としているのか。
A.GDPとかはただの指標であって、それを上げるにはどうすれば良いか、地域を解析し、強いものは更に伸ばし、弱いものは補正・強化することによって、GDPが上がってゆく。そのことによって地域の生活の質の向上につながってゆくこととなる。研究所は、その中の1つの政策の一環であるイノベーションと起業家育成という2つを主にやって行こうということです。
Q.生活の質を上げるという目的の一部をこの研究所が受け持つということか。
A.その通りです。
Q.5年間、政府の資金投入を受けるわけですが、個別プロジェクトに対する具体的な政府の関与はどのようなものか。
A.政府は、具体的なプロジェクトにはかかわりません。政府は、毎年、大学が行うプロジェクトについてその進行と成果のチェックを行います。ターゲットを満たしていないと、資金を引き上げる可能性もあります。
Q.あくまでも大学主導で行うということか。産学官連携というわけではないのか。
A.ノッティンガム大学の提出したプロポーザルでは、大学は、企業と地域の開発を目的としたリージョナル・デベロップメント・エージェンシーと連携してやって行くこととなっています。
Q.リージョナル・デベロップメント・エージェンシーは、地域の郡とか県とかから派遣された人で構成されているのか。
A.県長とか、大学関係の人間など、地域のいろいろな人で構成されている。その中のチェアマンというのが、イギリスの首相に任命された人であります。
Q.こういう研究所は、かなり学際的な協力が必要だと思いますが、実際には何人位の方がこれにかかわるのか。そして、そういう方は専属でやられるのか、それとも現在の所属機関に留まったまま仕事をされるのか。
A.まだ完璧には決まっていないが、ディレクター(ビジネススクールの人)は、多分出向となります。サポート、アドミニストレーター、コミュニケーション・ディレクターは専任で雇い入れます。
 例えば、ビジネスを創るだけではなくて、起業家育成の事業やプロジェクトは、ビジネススクールだけで行ってもしょうがない。それで、工学部や医学部など全てのところでやってゆく場合にコーディネーターが必要となります。現在でも、各学部に1名はそういう仕事をする人間がいるのですが、専任ではなく、他の仕事を持ちながらやっている。今回は、専属にするだけの仕事があるわけですから、かなりに人間をその目的で、専任で雇わなければならないということは確かです。5〜6人で構成されるイノベーション・チームは、新しく雇わなければならない。雇うにしても、大学内から雇い入れる可能性は低く、企業やリサーチパークなどで経験を持っている人を雇うこととなります。パートナーは先程お話したアメリカとか、ヨーロッパとかで、経験のある人を長期間、新しく雇ったり、ある程度のアカデミック・スタッフを少なくとも5年程度出向なり専属化してもらうことはあると思います。(以上)


草間コーディネーター:まだ、質問があるかと思いますが、第2部で、崔先生からご説明いただいたプロジェクトと我々がどのように関われるかについて論議したいと思いますので、その場でご発言願います。


2. 講演 その2「地域の活性化と産学の連携について ― 北海道産業クラスター創出の試み ―」
講師 北海道東海大学大学 国際文化学部 教授 川崎 一彦 氏

 前回、今年の2月にお招きいただいたときにお話いたしましたのは、北海道で産業クラスター創造という動きが活発になってきたということで、これは、北欧にインスピレーションを得た地域開発の手法です。北欧の地域開発政策は、アメリカと比較しても、EUの他の国と比較しても特色があります。北海道は、気候が北欧と似ており、交流が盛んです。シリコンバレーよりも北欧を見て、そちらからいろいろ学んだ手法で、新しい産業クラスターを創ろうという動きが出ている訳です。そういう北欧の地域開発手法の特色と、北海道の動きを前回お話しました。
 本日は、特に、最近の北海道における産業クラスター創造の動きをお話して、岡崎とどのような連携がとれるかについてのヒントとなるお話をさせていただきます。
 私は、今年の4月1日から所属が変わりました。北海道東海大学に国際文化学部があるわけですが、そこに4月1日付けで北方圏文化学科という新しい学科をスタートさせました。私は、そちらの主任を仰せつかっております。この北方圏文化学科というのは、日本で初めての学科で、北方文化コース、北方コースを持つ定員70名の新しい学科です。北方圏という言葉は、恐らく、皆様には耳慣れない言葉だと思いますが、これは北海道が創った言葉で25年ぐらいの歴史があります。
 北方圏とは、北海道と気候的に似た地域、具体的には、北欧、北米、アジアの北部、ロシアを含んでおります。一口で言うと、そうした地域の研究がこの学科の目的です。この日本ではじめての北方圏文化学科は、実は、今年募集してみますと、定員の半数が道外からの学生です。北方圏をアッピールする相手は必ずしも北海道だけではないことがわかりました。どういう科目があるかというと、語学では北欧の言葉、それから、北方圏の住居、民族、経済、アイヌ、寒冷地の文化、都市、北方圏の交流、北欧の企業(私が担当)、北欧の現代政治、建築文化などです。それから本学は、北欧の4カ国6大学と提携しておりますので、それらの大学の教員による特別講義、それから、それらの大学に半年間留学できるようになっています。そして、留学先で取った単位を、卒業に必要な124単位中36単位まで認定することになっています。
 今日は、北欧の地域開発戦略と、北海道の産業クラスター創造戦略ということでお話いたします。
 今、何故、北欧なのか。、アメリカでなくて、EUでなくて、北欧なのか。その点を少しおさらいをしておきたいと思います。
 それから、北欧は福祉国家であることは知られている訳ですが、意外に知られていないのが、強い産業基盤があるという点です。強い産業基盤がなくては福祉国家が成り立たないわけです。そして、その地域開発戦略も、一味違う方法を持っております。そして、北海道の基本としている産業クラスター戦略、それを手本にした北海道の産業クラスター創造の動きをお話するのが今日の目的です。
 北欧といいますのは、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランドのヨーロッパ北部の5カ国です。北欧のイメージとしては、学生に対するインタビューの結果ですが、やはり、福祉国家というイメージが非常に強い。確かにその通りなのですが、以外に知られていないのは、自動車のボルボ、紙パックのテトラパック、世界最大の携帯電話メーカーのノキア等を擁する産業基盤を持っているということです。北欧は、距離も以外と近く、距離だけでなく国民性も日本人と非常に近いなどいろいろな共通点を持っていることは前回お話致しました。
 福祉国家というのは事実で、ノーマライゼーション、バリアーフリー、ホームヘルパー等の言葉や、日本の年金制度は北欧を手本としたものということが出来ます。一方で、問題点があり、高負担の限界があるということです。それから、男女共同参画という点でも、スウェーデンでは、全閣僚の半数が女性であるように北欧は非常に進んでおります。そして、スウェーデンが一番の高齢国であった訳ですが、来年には日本はスウェーデンに追いつく訳です。むしろ、スウェーデンのほうから日本のやり方を聞かれる時代になってきています。
 「福祉の糧」として北欧の諸国は、強い産業基盤、国際競争力のある企業を持っています。しかもグローバルな企業です。自動車のボルボ、紙パックのテトラパック、重電で世界最大のメーカーであるABB(アセア・ブラン・ボベリ)、携帯電話のノキア、デンマークにはノボとツボルグなどバイオ・食品メーカー、ノルウェーには北海油田のノシュクヒドロ、スタットオイルなどの石油メーカーがあります。
 今、日本で北欧に注目する理由は何かというと、まず、日本の21世紀の重要な課題について北欧はお手本を示してくれることです。
一方では、日本では、グローバル・スタンダードと日本標準との乖離が指摘されている。日本の21世紀の課題として挙げる、高齢化、国際化、情報化、価値観の変化等について、北欧はこれらの全てについて考えるヒントを与えてくれる。高齢化・福祉国家についてはいうまでもないが、国際化では、例えば、ダイナマイトを発明したノーベルは、世界で最初の多国籍企業と言われている。情報化では、携帯電話やインターネットの普及率も北欧のほうがアメリカより高い。新しいOSであるリナックスの開発者はフィンランド人です。価値観の変化といいますのは、例えば、環境問題への対応や、男女共同参画への取組みという点でも北欧が手本になっている。スウェーデンでは2020年に原発を全て廃止する議会の決議を行ない、デンマークには、世界最大の風力発電のメーカーがあります。
世界標準と日本標準の乖離、あるいは、日本の常識は、世界の非常識といわれて非常に長い訳ですが、IBMの石田副社長は、日本独自とか日本が最初と言うことにこだわるべきと発言しておられます。情報化でも日本は非常に遅れていますが北欧は非常に進んでいる。パソコンの普及率では、ヨーロッパで高いのはオランダ、デンマーク、スウェーデンで、北欧諸国が非常に進んでいます。フォーブスという雑誌が評価をしたインターネットのインフラのランキングでは、トップはアメリカ、次いで、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドというように北欧諸国は情報化の点でも進んでいる。携帯電話では、世界一のメーカーのノキアはフィンランドで、第2位のメーカーのエリクソンはスウェーデンです。エリクソンは、携帯電話のシステムについては世界でNO1のメーカーです。携帯電話の普及率が世界一のフィンランドでは、携帯電話を携帯端末として使い、ほとんどの買物がこれで出来る。
 アメリカのプレジオグラフィーというところが付けたランキングでは、どの街がインターネットのハブになっているかを秒当たりの情報量でみると、トップはロンドン、次いで、ニューヨーク、アムステルダム、フランクフルト、パリ、ブラッセル、ストックホルムという順になっている。ストックホルムは、人口150万人で、札幌くらいの街ですが、東京よりはるかにインターネットのハブとしては大きな街になっている。
 世界標準と日本標準の違いですが、例えば、クレジットカードでは、日本のスタンダードはJCBですが3500万枚、世界のスタンダードはビザ・マスターで8億3500万枚ということで差があります。TOEFLという英語のテストの中間点ですが、昨年の日本はアジアの中で最低となりました。モンゴルとかバングラデシュに抜かれて、北朝鮮と並んで最低のランクです。
 北欧の産業政策は、福祉の基盤として強い産業、グローバルな競争力を持つ企業が必要であることがはっきりと位置付けられている。産業は福祉の糧であり、企業優遇政策がはっきり謳われている。産業の育成では、人口も経済規模も小さく1番人口が多いスウェーデンですら880万人、デンマークが500万人、フィンランドとノルウェーは400万人です。そうした国ですから、アメリカ、日本、ドイツなど他の先進国と競争しても仕方がない。大国がやらないニッチ=隙間を狙おうという戦略が徹底しております。
 政策のモデルとして、スウェーデン・モデルといわれるものがあります。これは、アイスランドを除く北欧でほぼ共通しているといえます。その中身は、福祉サービスは公的なものであって、全国を対象とする普遍主義がとられています。所得の低い方だけを対象とするものではありません。労働市場政策にも、平和的、協調的、中央集権的な労働市場や連帯的な賃金政策とういう特色があります。政治手法もコンセンサスを基本としている。この考え方はきわめて簡単で、世界で競争できる産業を育成することで、完全雇用と高い所得を保証する。それによって、個人の高い税負担が可能となる。そして、高い水準の福祉が財政的に可能となる、というものです。
 その為に、企業に対して、世界で有数の優遇政策を取っております、例えば、国営企業とか公営企業が多いのではないかという誤解がありますが、スウェーデンの場合は、ほとんどが私企業です。そして、いろんな企業優遇税制があります。法人税率は23%で、先進国では最低だと思います。独占禁止法はあるのですが、競争力のある企業が育たないということで、現実はほとんど運用されていない。企業は、どんどん大きくなり、競争力をつけてくださいというものです。輸入を自由化することによって、国内でも外国の製品と競争させるという考え方です。その結果、北欧は、国は小さくても世界に名の知られている企業が沢山あります。先に述べた企業のほかに、シートベルトで世界トップのAUTOLIV、白物家電で世界トップのメーカーのELECTOROLUX、世界一のベアリングメーカーのSKF、紙・パルプでヨーロッパ最大のメーカーのSTORAという企業等が連なっています。
 産業構造がハイテクであること、研究開発に対する投資額が世界でもトップクラスであること、最初からグローバルな競争を念頭においていること、隙間戦略、等などをわれわれは注目している訳です。研究開発費の国内総生産に占める比率は、スウェーデンは世界のトップ水準にある。
 地域開発に的を絞ってゆくと、新規事業を創り出すという点に非常に注目しています。今は日本でもTLO流行りですが、北欧ではほとんど聞かない言葉で、それよりも目的は新しいビジネスを創出することであり、それに的を絞っていろいろなサポート事業が行なわれています。その核になっているのが技術系の大学(北欧ではほとんどの大学が国立大学)を中心としたサイエンス・パーク、ハイテク・パークです。
 新しいビジネスを創出するいろんな支援システムがあるわけですが、その動機は、雇用機会を創出する労働市場的な支援システムと、ハイテク・パークなどで進められている成長産業の育成など産業政策的な支援システムとの2つがあります。アメリカと比べると、北欧のハイテク・パークは、かなり大きな違いがあります。
 アメリカでは、革命的な技術開発をめざします。北欧は、世界NO1でなくても良い、むしろ、ユーザーとしてのアプリケーションの技術でも充分グローバルなビジネスは出来るという考え方です。アメリカがリーダーを狙っているとすれば、北欧はフォロアーでも充分ビジネスになると考えている。北欧のハイテク・パークは、大学の研究者よりむしろ、工学系の大学院卒業者レベルの方がビジネスを始めている場合が多い。そういうレベルでも出来るようなアプリケーションの技術を商業化している。アメリカの場合は、当たると巨額の利を得る可能性があるわけですが、当たらないケースが非常に多い。北欧の場合は、リスクが非常に小さいがそれでもグローバルなビジネスになるということをハイテク・パークは見据えている。アメリカはTLOですが、北欧は目的である企業支援に的を絞って取組んでいる。その結果、人口10万人当たりの特許件数を見ても、北欧は世界でもトップの水準にある。トップはスウェーデン、その次がフィンランド、3番目がデンマーク、という高い水準にある。
 ハイテク・パークや企業大学の地域への取組みとしては、1つは、スウェーデンのオーショルズビークという町、もう1つは、フィンランドのオールという町をご紹介します。
 スウェーデンのオーショルズビーク大学に創設された企業(アントレプレナー)大学ですが、この地域は1980年代から人口が減少し、船舶用クレーンとか紙・パルプ産業がこの町の基幹産業で伸び悩んでいた。そして1995年に地元の紙・パルプの企業に勤めている人が新聞で「世界1の企業大学を創ろう」呼びかけ、たった2年で国立大学の学科として企業大学を創ってしまったというケースです。危機感を持って、民主導で、うるさく言い続ける人がいるというのが大切なようです。
 フィンランドのオールの場合は、1959年にスタートした大学が核となっております。フィンランドにも南北問題があって、産業基盤は南部に集中しています。1974年にノキアが立地します。人口は10万人位で、誰が、何処で、何をやっているかがツーカーで分かる適当な規模です。戦略が全ての人に良く理解されていることが大きな特色です。オールのハイテク・パークはテクノポリスと言う名前で1982年にスタートしました。現在では120社が入居し、全体で2,700人位の雇用を生み出しています。ノキアがその中核となっており、1992年には、医療系のメディポリスという新しいハイテク・パークがスタートしている。
 北欧のハイテク・パークを訪れますと、新しさとか伝統のなさが強調されます。スウェーデンの場合ですと、中世からの伝統のある大学ではあまり成功しておらず、むしろ、新しい、伝統のなさが逆に、メリットとして生かされている。キーパーソンがいて、しかも、長期的なコミットメントをされていることが、共通点となっている。勿論、コーディネーターが重要なのは言うまでもありません。
 産業クラスター(房、魚の群れ)ですが、企業、産、学が群れをなして国際競争力のある産業集積を作っている状態です。北欧では、この産業クラスター分析を早くからやり始めています。こうした地域は、福祉国家だけでなしに、グローバルな競争力を持つクラスター、企業を持っています。
 ここで、北海道が最も注目するフィンランドをみてみます。フィンランドは、戦後、かなり安定した成長を遂げていました。特に、石油危機以降、ヨーロッパの他の国は、低成長あるいはマイナス成長にあえいだ訳ですが、フィンランドは、当時の旧ソ連との貿易がバランスとなって非常に高い成長を遂げてきた。しかし、1990年代の初め、多い時は輸出の4分の1を占めていた旧ソ連が崩壊し、ゼロ成長という厳しい状況を迎えた。この後、3年連続マイナス成長、失業率は20%という非常に厳しい状態を迎えました。それに対して、危機感をばねにして、ハイテク・パークを建設し産業構造の転換を図ってきた訳です。最近の指標を見ると、フィンランドはヨーロッパの中でも非常に高い成長を遂げております。フィンランドには、SISU=フィンランド魂という表現があり、何回も旧ソ連と戦争をして負けている訳ですが、そういうときに培った、危機を乗り越えるというフィンランド魂が今回も発揮された訳です。起業家教育についても、幼稚園から始めている。ハイテク・パークを中心とする地域開発の戦略もアメリカとは違う新しいやり方が採られている。産学官のコラボレーション(協働)、キーパーソンとリーダーシップ、こうしたことがフィンランドから学べるところではないかと思います。
 北欧の教育政策を見ると、日本の学生と比べ、大学生の自立意識が非常に強い。北欧の大学生は、親の脛をかじることはせず、自分の責任で大学から奨学金をもらう、それで投資意識が非常に強い。この教育に投資をして、どれだけのリターンがあるかを常に計算している。また、フィンランドでは、幼稚園から起業家教育を行なっている。研究開発と教育に対する投資の国内総生産に対する比率は、世界の最高水準にある。世界でトップはデンマーク、スウェーデン、フィンランドという北欧の国が非常に高い水準にある。
 起業家教育については、フィンランドの西部にバーサという町があるのですが、ここでは、外的起業家精神(財、サービスを生産して付加価値を創造すること)と、内的起業家精神(創造性、柔軟性、活動、勇気、イニシアチブ、リスク管理、モチベーションなど外的起業家精神の前提条件)の2つに分けて幼稚園から教育を行なっている。特に、内的起業家精神は、幼稚園から教育し身に付けさせる必要があるとの考え方を持っており、バーサでは、幼稚園から大学まで全ての学校で起業家精神の教育を行なっている。幼稚園や小学校低学年では、創造性と勇気を育む教育を行ない、活動の計画も生徒にやらせ自主性を育て、ルールや教材も生徒に決めさせ責任を持たせる。高校の起業家教育では、経営の基礎、ビジネス・チャンスとプラン、企業の設立まで含まれてきます。
 北海道の産業クラスターは、こうした北欧との交流からインスピレーションを受けスタートしたものです。北海道は北欧との交流が非常に盛んで、そうした関連の組織や団体が沢山あります。その一方で、北海道経済は非常に深刻な状況にあります。北海道経済は、官依存・公共投資依存体質が130年間張り付いてきた。その結果、産業、特に、製造業の基盤は非常に弱小です。その一方、建設業の比率は非常に高い訳です。北海道を国としてみた場合の域際収支は、2兆6600億円もの赤字となっている。北海道から輸出できるものが無く、北海道の人口は570万人で、日本全体の4.6%ですが、公共投資はピークの時で16%以上あり、現在でも10%ありますが、これが続かないのは明らかです。
 北海道は、現在の状況では、特に貧しい訳ではないのですから、公共投資の比率が長期的には人口と同じ5%程度になると誰もが思っています。その一方で、これまで北海道は頭を使っていない。研究開発に対する投資が他と比べ、ダントツに低い水準にあります。それで最近急速に危機感が上昇してきた訳で、これまでの歴史で珍しい産業界主導のイニシアチブとして産業クラスター創造が1996年にスタートしました。産業界の4団体が産業クラスター創造研究会をスタートさせました。1996年8月にはビジョンを、1997年にはマスタープランを、12月にはアクションプランをスタートさせ、現在では具体化の段階に入っています。中間報告では、結論として北海道には国際競争力のある産業は1つも無いという事が分かり、現在の保護された環境の中では、国内で比較的競争力のあるクラスターは、あるいはそのポテンシャルは、職、住、遊の3つのグループとして、これを国際競争力にあるクラスターに育てて行こうと現在動いています。
 昨年出したアクションプランでは、具体的な推進機構として、HOKTAK(北海道地域振興センター)内に、今年の4月からクラスター事業部がスタートしました。産学の融合を目指す融合センター(コラボ)が来年2月に北大の構内に完成します。現在、具体的なクラスターをつくる為のプロジェクトづくりが進められています。同時に、北海道内13の地域でクラスター研究会がスタートしています。昨年からは1点突破の時期で、何か拡充、全面展開をしてゆく予定をしています。具体的には、クラスタープロジェクト、融合センター、地域研究会、そして、私の関わっている起業家養成講座をつなぎ合わせて進めています。
北海道は、公共投資依存という本州と比べると異質な問題を持っていて、自分でなくて、お上が財政的な支援をしてくれるという考え方になっている。一方で、北海道が全く可能性がないかというと、そうではなく、私の実感としても、北海道は日本離れしている。いろんな意味で、北海道は日本の中の外国であると思います。物理的な環境、気候、スペースなどで、白樺を見るとヨーロッパの人はほっとする。北海道ではウサギ小屋でなく広いスペースがとれる。道民性も非常にオープンで、意志の疎通も非常にオープンで、伝統に拘らず、離婚率も高い。北海道スタンダードは、グローバルスタンダードと日本スタンダードの中間にあると思っています。
以上で、北海道がインスピレーションをとってきた北欧の産業政策と地域開発政策、それをベースに北海道でどういう動きがあるかについてお話し致しました。参照:http://www.snowman.ne.jp/cluster(以上)




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