第1回バーチャル・ユニバーシティ研究会





第1回バーチャル・ユニバーシティ研究会
平成11年7月23日 15:15〜17:15 岡崎商工会議所中ホール 参加者 26名
岡崎商工会議所コーディネート活動支援事業

T.講演「米国での日本語事情―バーチャル・ユニバーシティの1事例―」
講師:ノースキャロライナ大学ウイルミントン校 日本語専任講師 加納洋子氏


現在、私は、ノースキャロライナ大学ウイルミントン校の日本文化を研究するプログラムのサマースクールで学生を連れて名古屋に来ています。学生は、名古屋学院大学で、寄宿舎で生活しながら、日本文化と日本語を勉強しています。私が、日本文化と日本語の授業を行い、名古屋学院大学の先生から宗教、文学、社会全般の授業を受けるプログラムです。
日本語を外国人にどのように教えるかについての、私の経験を簡単にご説明致します。1990年に「日本語教師あるいは、日本語を教えながら大学院に行く」北米教育委員会のプログラムに応募し、日本全国で30名が合格し、ローデン(?)先生という、日本語教育についてはアメリカでは神様的な存在の先生から日本語教育教授法を直接学びました。修士課程では高等教育学を学び、次に、コネチカット州の高校で日本語を教え、65名のアメリカ人の高校生を2週間日本に連れてきて、ホームステイで日本文化全般と日本語を学ばせるプログラムに関わりました。
大学院卒業後、北米教育委員会からノースキャロライナで、日本語の先生を募集しているとの紹介を受け、この地で働くこととした。ノースキャロライナのハント州知事は、日本との貿易の大きな関心を持っており、アメリカの州として唯一日本に直接事務所を置いている。この関係で、日本との関係に強い興味を持つ州政府といえる。また、1991年にクリントン大統領の「光ケーブルを使って都市と遠隔地の情報格差を解消し、情報の浸透・共有を図る政策」に、一早くハント州知事は対応し、この事業は、ノースキャロライナから始まることとなった。
この関係で、ここの高校では少し特殊な実験を行っている。それは、車で20〜30分の距離にある3つの高校で、日本語の授業を共有するというプロジェクトで、私は、プロジェクト開始2年目の1992年に赴任しました。これは、テレビ会議システムを使って3校同時に日本語の授業を行うもので、時々は他の学校にも出かけて生徒との対話を行いました。また、社会科の授業で日本のことを話してほしいということで、中学校に出かけることもありました。
さて、アメリカ人学生(高校生)にとって日本語の学習は、非常に難しいもので、(会話はそれほど難しくはないが)書く方、特に漢字は難しく、これで挫折する学生が多い。また、日本語は、選択科目であり、難しく、宿題も多いので、楽をしたい学生は、日本語の授業を取らないことが多い。
20年ほど前は、日本文学や、日本言語学を学ぼうとする学生が、選択科目で日本語を履修していたが、現在、日本語を履修する学生は、日本の漫画・アニメが大好き、又は、ビデオソフトを買ったのでこれを読んでほしいという学生が多い。後は、空手や剣道などの武道に関心を持つ学生や、皆がやっていない外国語だから日本語を履修するという気楽な動機が多い。大学では、国際ビジネス、コンピュータ、エンジニアになる学生が日本語を勉強する。これは、日本の企業との業務提携や、共同研究が盛んになったことに因るが、漫画が好きで入ってくる学生も非常に多い。
学ぶのが難しい日本語を、挫折させずに興味を持って続けさせることが、教師の重要な仕事といえる。
これには、日本食のパーティを開いて、学生に実際に日本料理を作らせたり、日本パーティを開いて資金集めをすることなどで留学生を増やしたり、料理でも折り紙でも、何かひとつ出来るようにして、そこから日本語を学ぶ動機付けを行ってきた。
高校のテレビを使った遠隔授業では、テレビ画面が分割されており、それぞれの学校の教室が映し出されている(私は、そのうちの1つで実際の授業を行っている。)。それぞれの教室にカメラのオペレーターがついており、質問者を大写しにしたり、教室の全体を写したりの調整を行う。
その後、「ノースキャロライナ大学で日本語を教えないか」という話があり、そちらへ移ることとなった。
さて、バーチャル大学に関しては、ノースキャロライナ大学では、1998年にDCS(デリーダという家電系の企業が作る財団のディジタル・コミュニティズ推進設立委員会)のバーチャル大学をつくらないかという呼びかけにより、ウイルミントン校でスタートした。アメリカには、バーチャル大学が沢山あり、大きなものだと、サンフランシスコ周辺の大学が集まって作っているもの、ユタ州の州知事を中心につくった「ウエスタンガバナー」、企業がつくったアリゾナの『フィニックス大学』などがある。
ただ、どこもあまりうまくいっていないのが実情のようです。カリフォルニアもだめになり、ウエスタンガバナーもあまり学生が集まらなかったようです。ただ、フィニックスは、採算重視の経営により今も続いているようです。
我々のバーチャル大学に、日本側で参加しているのは、三重大学、三重県立看護大学、岩手県立大学、東京大学の社会研究所です。日本側は、多数の大学をまとめて行くのが難しいようです。昨年(1998.10〜1999.6)のバーチャル大学の内容は、三重大学と行う『英語』の授業、三重県立看護大学並びに岩手県立大学と行う『看護学』の授業、三重大学工学部と行う『コンピュータ』の授業の、3クラス・3種類の授業を行った。(科目の選定は、日本側のリクエストによる。)
英語は、三重大学の早瀬先生のクラス(教育学部英語科)と、私の日本文化のクラスとでディスカッションを行った。内容は、それぞれが映画を見た上で、家族の役割やあり方について英語でディスカッションを行った。
今期も同じ内容で行うが、英語の授業については「少し英語のレベルを下げたクラスを作って欲しい」との要請を受け、私の日本語のクラスと、岩手県立大学の英語の授業を組み合わせ、日本語と英語で話をしようという授業が始まります。ISDN回線とテレビ会議システムを使って5回行う。
看護学の授業は、看護学の先生が「日本とアメリカの看護の比較」というテーマで授業を行った。
コンピュータの授業は、全てウエッブ上で行い、学生は教室に出てきません。ウエッブ上で授業を行い、アサイメントをインターネットで送って先生に点数を付けてもらう。テストのときだけ教室にくる。ただし、このクラスは、日本では単位認定の対象とされない。(日本では、対面で授業を行わないと単位が与えられないそうです。遠隔教育も日本では30単位までしか見とめられていなかったが、今年から60単位に拡大された)
昨年始まったこのプロジェクトは、「デモンストレーションプログラム」で、今年の秋から始まるのが「パイロットプロジェクト」、2000年から本格的なバーチャル大学となる予定です。
参加するためには、大学・機関から参加するクラスを登録していただき、ノースキャロライナ側がまとめ役として、世界各国の学生からの相談や問合せに対する交通整理を行います。
日本語を勉強する学生や教師の数は増えているが、きちんと日本語が話せて教えられる先生は非常に少ないのが現状です。この為、日本語のプログラムは、出来ては消え、出来ては消えの繰り返しとなっています。
最近、アメリカでは、日本語を教え始める小学校が出てきているが、先生の数が足りません。日本語を教え始める場合、最初は1クラスで始め、(これではパートタイムの仕事となるので、フルタイムの仕事とする為に、)それを自分で大きくする。大きくするとその学生数を保つ必要が出てくるが、日本語を学ぼうとする学生の絶対数はそれほど多くは無いので、しばらくすると行き詰まってしまう。人数が少なくなると、採算面からプログラムは予算をカットされてしまう。
そうした中で日本語のプログラムをどうしたら続けて行けるかを考えるとき、遠隔授業で世界中から学生を集め、質も確保するという提案を私がノースキャロライナで行った。遠隔授業は、テクノロジーを活用した授業なので、ビジュアルを活用したり、いろいろのことが出来る。いろんな状況における日本語の使い方の教材を作り、それをウエッブ上に置き、学生には日本にいるような環境の中で勉強してもらうことを考えている。
学生の興味はまちまちなので、漢字を学びたい学生には漢字を、会話を学びたい学生には会話を学べるようウエッブ上に教材を用意し、興味に応じて学生はどんどん勉強を進めて行けるようにする。なかなか身につかない学生に対しては、マンツーマンでじっくり教えて行くことが出来る。
ウエッブやテクノロジーを活用していろいろな学習の機会を提供し、いろいろなニーズに応じたクラスが創れるのではないか。最初のコンテンツ(教材)を創るのは大変ですが、出来てしまえば、ひとつづつ改善して行けば良い。
日本語教育を、遠隔教育というかたちで始めれば、採算が合うし、学生にとっても、自分にとっても新鮮なプログラムとなる、という考えで始めました。実際のウエッブサイトの中味をお話します。
まず、ウイルミントン校のサイトを開きます。次に、「オンラインコース」をクリックします。オンラインコースにもいろいろあり、授業の一部をオンラインで行うものや、今回ご説明した「グローバル・バーチャル・ユニバーシティ」というようなものもある。グローバル・バーチャルユニバーシティをクリックすると、現在進めている3種類のクラスのシラバス(概要:授業の目的、内容、スケジュール、教師のプロフィール等)を見ることが出来る。
授業の中身を見るには、「ユーザー名とパスワードを入力」すると、クラスの中に入って行ける。今週の授業予定、課題、必要な準備作業、トピック、宿題、テーマに応じたビデオ映像、授業内容のビデオ映像、今週の目標、発声練習のビデオ映像、絵を見ながら質問に回答するページなど、授業の内容を更に詳しく見ることが出来る。
更に、フォーラム(日米の学生をチームにして、チーム毎にディスカッションをする場所)、チャットルーム(気楽なおしゃべり)、ライブラリー(授業の理解を高める為の資料提供・・・準備中)等が準備される。
主な内容は、「クラスの紹介」、「掲示板」、「授業内容」の3つの要素で構成されている。
これらを活用することによって、出来る学生は課題が終り次第授業は終了となり、出来ない学生は、残してその学生にあった方法で教えることが可能となる。
こうした遠隔授業をとりいれた通信制の大学院が沢山つくられており、内容は「看護学」、「ビジネス」、「教職」など資格に関する授業が多い。
バーチャル大学は、始まったばかりですが、拡大を続けている。現在、ノースキャロライナ大学ウイルミントン校では、こうしたクラスが15〜16あるが、来年には30〜40に増えることとなる。
今年からノースキャロライナ大学と東京大学とドイツのデュッセルドルフ大学により日本文化の授業が始まり、フランスのパスツール大学と長崎県立大学は2000年からこのプロジェクトに参加することとなっている。


U.質疑
Q.数ヶ国の大学が連携して授業を行う場合、時差の問題からテレビ会議の時間設定が難しいと思うが、どのようにしているのか。

A.テレビ会議の時間設定は、非常に難しい。アメリカでは、教師側で比較的自由に授業開始時間が設定できるが、日本では難しいようだ。アメリカは夜の7時、日本は朝の8時30分と授業開始時間を決め、これには必ず参加することとした。最近では、テレビ会議よりインターネットを介して行うことが主流となっている。

Q.英語がまったく出来ない学生には、どのように教えるのか。

A.オーディオ、ビジュアルを活用することにより、日本語だけで行うことも可能と思う。
(以上)





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