第5回産学研究会議事録



第5回産学研究会議事録
平成12年1月26日  岡崎商工会議所中ホール 出席者36名
岡崎商工会議所コーディネート活動支援事業

講演1.「お金よもやま話」  講師 岡崎女子短期大学 教授 飛田 紀男 氏
私は古いことが好きでございまして、そちらの方の勉強を今も主体に行なっています。元々私はこちらの人間なのですが、41年間こちらを離れておりまして、郷里に帰れて良かったなあという気持ちが充実している訳でございます。
今日は、お金よもやま話という題と致しました。岡崎市内における私の最初のパブリックスピーチということでございます。
西加茂郡の小原村に春日井薫先生という方が居られまして、もうとっくに故人となられましたが、明治大学の総長で、金融論の大家でいらっしゃいます。この方が、こういうことばを言われました。「世の中は、金と女が仇なり。どうぞ仇にめぐり合いたい」。
これは、春日井先生の男としての立場からの発言だと思います。男は女を苦しめ、逆に、女は男を悩ませる。お金は、もっと広く、男も女も苦しめ、悩ませる。考えてみますと、お金と言うものは人間が作ったものであります。同じように、人間が作ったものとして、法律も有り、神も有ります。人間と言うものは、人間が作ったものによって苦しめられ、悩ませられるものであります。
お金はその最たるものでございまして、お金について話すと言うことになると、これは短時間では話すことが出来ません。今日は、お札、しかも、お札の一部についてお話したいと思っております。
皆さん、お札と言うものは、それを一日に一度はお使いですね。お札を一度も使わなかったと言う日はまず無いかと思います。私は、若い頃から銀行に勤めておりまして、その際、一週間に一度はお札を使わない日を設けまして、それを実行したことがありました。
お札と言うものは、日本銀行が発行致します。これは無制限に使っても良い。無制限法貨と言う言葉で専門的には表しております。
ところが、我々が使うところのコインは、通用する限度があります。これ以上持ってきたら、受け取りを拒んで良い、という制限があります。例えば、21円のものを買う時、1円のコインを21枚持ってきたら、受け取りを拒む事が出来ます。お札には、そういう制限が全くございません。今、お札は、全て日本銀行が発行しています。
では、どのくらいのお札を日本銀行が発行しているのか。12月末での日本銀行券発行残高は、65兆4047億円です。日本銀行の窓口からお金が出ます。それを各銀行に渡します。
日本銀行の支店は、例えば、中部地域で言えば、名古屋支店、金沢支店、静岡支店、松本支店とそれほど多くありませんが、全ての人が日本銀行券を手にしております。従って、日本銀行の人は、銀行の中で一番庶民と密接に関係しているのが日本銀行であるといっております。
そして、その日本銀行の大きな役割は、日本銀行券を発行するということです。かつては、各銀行が銀行券を発行した時代もありましたが、現在は、日本銀行だけが銀行券を発行しております。
そのお札は大蔵省印刷局で印刷しており、そのコストは、1万円につき20円くらいです。日本銀行から発行されたお札は、また日本銀行に帰ってきます。
お札には、1万円札、5000円札、1000円札、500円札とありますが、500円札はもう印刷されておりません。
また、100円札、10円札、5円札、1円札も通用可能です。1円札は、明治以来何回も作られました。1円は、基礎通貨単位と呼んでおりますが、諸外国では普通、補助単位があるのですが、とうとう日本では通貨単位が円1つだけになってしまいました。外国の通貨との比較の上でのみ、銭という単位を使われます。
一方の通貨が1桁で、日本の通貨が3桁であるとアンバランスだということで、時々デノミの話が持ち上がってきます。外国との関係で釣り合いを取るという事でデノミの話が出てきます。
さて、この1円札ですが、現在でも、かなりの量が残っております。銀行へ持ってゆけば、1円は1円ですが、これを古銭商に持っていきますと、額面より高く引き取ってもらえます。明治15年に日本銀行ができて、明治18年に最初のお札を発行したのが大国主の命の図柄の1円札です。
銭とか厘とかいう補助単位は、昭和28年末をもって廃止となっております。
資料でご覧いただくように、18種類のお金がまだ日本では通用可能です。お金は天下のまわりもので、次に、これらのお金が、普通どのくらい経ったら使えなくなってしまうかについてお話を致します。
例えば、ある調査によれば、1万円札を手にした場合、平均7日間自分の手元に置いているようです。硬貨は、半永久的にもちますが、お札はどれくらい経つとぼろぼろになってしまうかというと、だいたい100回受け渡しすればぼろぼろになってしまいます。ぼろぼろになったお札を損券と呼んでおりますが、銀行の窓口へ帰ってきた正常なお札と区別しております。
それでは、損券と扱われたものは、その後どうするのか。かつては日本銀行本店内で焼却しておりましたが、昭和40年代に環境問題などへの対処から、紙粘土状に溶かして処理をするようになりました。このお札の焼却を止め、紙粘土状に溶かして処理をするという初期には、製紙会社から川にお札が流れ出したということもありました。
今は、細かく裁断して、溶かしておりますのでそういうことはありません。お札に関わる事故は、昔から沢山聞かれます。
さて、お札の登場人物に関しては、頭の毛の薄い人は、お札の肖像になりにくいといわれております。これはお札の偽造を防ぐ為で、そういう意味では、森鴎外や大隈重信はだめです。福澤諭吉や新渡戸稲造、夏目漱石は、頭の毛がいっぱいあります。お髭の無いのは福澤諭吉だけです。
コインには発行の年が書いてありますが、お札には書いてありません。その代わり、アルファベットと数字の組合せが書き込まれております。アルファベット26文字のうちIと0は数字と混同されやすい事から使われておりません。アルファベットは、数字6桁をはさんで、左側は一番早いものはAから始まっております。皆さんが今手にされるお札では、アルファベットは左の方が2桁になっております。最初の番号となるA000001Aをどこに寄贈するか問題になりました。それだけ発行順の早いお札は貴重である訳です。
そして、5000円札では、総裁の印がお札の真ん中にあり、新渡戸稲造は世界をまたにかけて活躍した人なので世界地図が書いてあります。1万円札と1000円札では総裁の印は左側にあります。
かつては聖徳太子が100円札、千円札、5千円札、1万円札に登場しているという時代がありました。そのころは、お札のことが聖徳太子と呼ばれていました。
実は、明治の半ば頃にお札に登場される人物を7人決めました。ところが、戦争に負けた時、GHQがこの7人をパージせよといったのですが、当時大変実力の有った日銀総裁の一万田尚登が、聖徳太子は「和を以って尊しとなす」という思想で日本国を統治した人であるから、是非残してくれと言った事で聖徳太子だけが残りました。
その聖徳太子は、実は、お札の上に登場させる事が決まってから、43年間もお札に登場する事はありませんでした。昭和5年に日本は金本位制に復帰しますが、ようやくその時、43年経ってはじめて聖徳太子がお札の上に登場しました。
今、カウントすれば、日本銀行券は、これまでに49種類出てきておりますが、50番目のお札で聖徳太子が再び登場するのではないかと期待する人もあるようです。
この夏に、2000円札が出ることになりましたが、これには人の顔はのっておりません。沖縄の守礼門を右側に持ってまいり、左側に2000円の文字、裏は、源氏物語絵巻の鈴虫の巻の絵と紫式部の絵を配することになっております。
元来、実在の姿がはっきりしない人を載せる事は止めよう、これは昭和59年に今のお札に変わる時、顔、形のはっきりしている人でないと載せないようにしましょうということにしたのですが、2000円札ではその原則が破られました。
かつて2のつくお札はいくつかありました。戦争前では、100円札があって、それから20円札でした。当時100円は大変貴重で、50円も相当大きなものですから、それをやめて次を20円札としました。
考えてみれば、2000円札は異例で、2000円札については、長い間2という紙幣が使われてこなかった事から、我々の使用感覚とマッチしておりませんので、色々な問題が起こるのではないかという懸念があります。
現在、1万円札の発行額のシェア―は全体の9割を越えております。発行枚数も一番多く、額面が一番大きい最高紙幣の発行枚数が一番多いという国は非常に少ない。額面が一番大きい最高紙幣と一番良く使われる中心紙幣とが合致している国はあまり有りません。
アメリカは100ドル紙幣、ドイツでは1000マルク紙幣と1万円より高額な紙幣があり、1万円札ばかりが多くなると、このままでは日本銀行の金庫がパンクするのではないかと言うような懸念も出ておりましたが、これは支店の金庫を大きくする事で対処する事になりました。
ちなみに、キャッシュコーナーには、危険分散という考えによりあまりお金を入れておりません。
高額紙幣への待望論は他にもあり、1万円札は昭和33年12月に出ており、その時の高卒初任給は1万円ありませんでした。5千円札は昭和32年10月に出ました。この時のお札は、両方とも聖徳太子でありました。
この1万円札が出た時の発行高のシェアーは、たった6%でした。昭和の終わりの頃では87%、今では90%を越えております。最高紙幣が9割を越えている国は割合少ない。だから、10万円札や5万円札のアイデアが出てくる訳です。
ところが、通貨当局に言わせますと、大きい金額の紙幣を出すということは、通貨が安定していないという事を認めた事である、と反論をする訳です。
昭和33年に1万円札が登場してから5倍程度しか消費者物価は上がっておらず、また、キャッシュレスの時代がきていると言うように色々な反論がございまして、高額紙幣の発行は、まだ暫くは現実性のない事のように思われます。
以前に、女性をお札に出したらどうでしょうかという話題で意見を出し合った事があります。有名な女権拡張運動の平塚雷鳥はあまりにも古く、歌人の与謝野晶子はお孫さんにあたる人が現職の国会議員であり、自由恋愛の旗頭の様な人、樋口一葉等の名前が出ましたが、私は作家としても母としても立派な業績を残した野上八重子はどうかと発言しました。
大隈重信は政治家というイメージがあり、政治家は時代の流れによって評価が異なる訳ですし、頭の毛が薄いことからお札には登場しにくい。皆さんもお札に登場しようと思うのなら、政治家にはならない方が良いと思います。
今日は、お札の上に登場してくる人物を含めましてお札の話をさせて頂きました。時間も参りましたので、これでお話を終えたいと思います。


講演2.「企業の役割と地域福祉の課題」  講師 岡崎女子短期大学 教授 加藤 佳子 氏
私は、岡崎女子短期大学の中にあります生涯学習研究センターの責任者として3年間をやってまいりまして、市民の皆様との交流の経験は持っておりましたが、本日こうして企業の皆様との交流が始まって行くことに大きな期待をしております。
皆様は、福祉についてどのような関心をお持ちでしょうか。大変関心をお持ちの方が多いことに驚いております。

1.社会福祉基盤構造改革とは
最初のテーマは、「社会福祉基盤構造改革とは」です。3年ほど前からでしょうか、福祉は大変クローズアップされてまいりました。福祉、中でも介護保険に関してはマスコミで取り上げられない日が無い程頻繁に取り上げられ論議されるようになり、一般市民の方の関心も多いに高まり、1997年の12月にようやく介護保険法が成立しました。
その介護保険が出てきた基礎になるものが社会福祉基盤構造改革というものです。そこで議論されて、今までの福祉を見直さなくてはいけないと言う議論が出てきた訳です。なぜかと言うと、今までの福祉は、どちらかと言うと社会的・経済的に恵まれない、また、障害を持った人など社会的弱者といわれる人のためのものと言う概念を持たれていました。
しかし、もうそういう特別のものではなくではなく、65歳以上の人口の比率が14%以上になる社会を高齢社会と定義するわけですが、その比率が現在の日本では16.7%と6人に1人が高齢者となっており、もはやわが国は高齢化社会(高齢社会になって行く過程で、65歳以上の人口の比率が7%以上)ではなく完全に高齢社会に入っております。
2025年になりますと4人に1人が高齢者と言うこととなり、福祉といっても本当に幅が広い訳ですが、特に、その中でも老人福祉が非常に話題となっている訳です。そうしたところに少子化ですので、児童福祉も問題となっている訳ですが、今日は、老人福祉その中でも介護について考えてみたいと思います。
介護は、これまでに散々やっていますので、これ以上家族で担うことは出来ない。少子で高齢化ですから一人の子供が2人の親を、それにおじいちゃん、おばあちゃんを加えた4人の介護が必要と言う時代ですので、とても家族だけで介護できる状況ではありません。
ではどうするかと諮問された結果、社会で担う、その財源を保険料として取ろうという事になった訳です。ですから、福祉が今までのようにお上が、措置という言葉を使って行ない得るものではなくなったことを示しております。
社会福祉に従事する人の数は、1970年の29.6万人から1996年の113.3万人へ、この26年間で3倍以上に増え、全就業者数の1.7%を占めるまでになっています。
次に、社会福祉関係者と主な産業の就業者数の比較(1970年=100として1996年を見ると)においては、全体の就業者数の127に対して、社会福祉関係者383とその伸びは著しい。
また、福祉(113万人)、医療(204万人)、衛生(119万人)の就業者数を合わせると、436万人となり、全就業者数の6.7%と非常に大きな割合を占めている。これは、運輸・通信業の就業者数411万人を上回っている。
更に、NPOやボランティアに従事している人が622万人いると言われており、先程の福祉、医療、衛生の従業者を加えると1058万人が広い意味の福祉関係に従事しているということになる。このことを考えると、これからの日本の社会を担っていくものとして福祉が無視できないものである事がお分かりになると思います。

2.経済社会と社会福祉
福祉の市場規模(平成7年の産業関連表による)は、日本全体の経済規模937兆円に対して、その内社会保障関係は36兆円で全体の3.9%を占めている。厚生省の全分野と広く捉えると市場規模は58兆円で全体の6.2%を占める。
社会福祉および関係分野の国内生産高の推移をみると、国内生産額は全体で937兆円、1990年から1995年の年平均伸び率は1.4%であるのに対して、社会福祉関係は4.2兆円で年平均伸び率は11.5%、社会福祉及び保険・医療分野では36兆円で年平均伸び率は6.3%と高い伸びを示している。
ここでいう社会福祉は、保育所、特別擁護老人ホーム、知的障害者援護施設、身体障害者授産施設等の狭い分野で捉えており、もう少し広い分野で捉える事もできる。
これを他の産業分野と比べると、民生用電気機器では4.4兆円で年平均伸び率は0.8%、放送業では2.7兆円で年平均伸び率は3.6%、ソフトウエア業では4.2兆円(年平均伸び率のデータ無)となっており、社会福祉の市場規模4.2兆円、年平均伸び率11.5%が相当大きなものである事が分かる。
社会福祉の経済効果についてみると、1次(直接)効果は1.738で、輸送機器の2.561や建設の1.946には劣るものの、全産業の平均1.706を上回っている。2次効果は、社会福祉では0.525、輸送機器は0.390、建設は0.480で、全産業の平均0.351を大きく上回っている。
また、雇用創出効果は、全産業の平均を100とすると、社会福祉は126.2で、建設の125.8、輸送機器の111.4を上回っている。雇用創出効果については、保険福祉分野で平成11年度のみで約10万人の増加が期待されている。
福祉というのは、経済的にもこれからどんどん伸びてゆくし、国の経済を担ってゆく分野として大きな期待をされる分野でありますが、しかし、福祉というのは経済面だけを強調してはいけない訳で、経済効率だけを追求しては駄目な分野です。では、福祉で大事なものは何かというと、それは質であろうと思われます。例えば、4月から介護保険が始まりますが、そうなりますと色々な企業が介護事業に参入しようと指定を受けております。
皆様が関連している会社で介護事業指定者、介護指定受諾事業者に指定された事業所はございますか。(会場からYESの声)
利益の追求は勿論重要な部分である訳ですが、福祉は利益だけでは無理で、質とかサービスを心がけておられると思いますが、その質が非常に大事です。質を強化するシステムが大切で、その質の基準が重要となります。これは、一番大切なのは、利用者の視点に立った、利用者がサービスを利用して一番満足がいくというところです。
熊本県の特別擁護老人ホームの評価基準の例ですが、そこでは木目細かな評価基準が作成されております。例えば食事面では、食事が選択できるか、食事の時間が自由かどうか、温かい食事が食べられるか等の6項目が評価基準としてあげられ、その6項目それぞれにつき更に細かい基準があります。利用者の立場に立った細かい基準が大切です。
在宅サービスについて言えば、時間がある程度希望に応じられるか、会話などの応対振りなど利用者の立場に立った細かい基準が大切です。
今までの一般にいわれる「措置」でやってきたものは、いわゆる応対が役所体質といいますか、あまり個人的な話は聞いてもらえず、こういう例もありました。在宅サービスで、「気分も良いし、今日は天気も良いから散歩に行って欲しい」と言われても、市とか公的機関のヘルパーさんですと、今日は予定されていないのでだめということになってしまう。或いは、聞いてみてよいと言われたら今度やりましょうという事になってしまう。でも、今度来たときには、その高齢者の状態が悪くて外へ出たくない気分かもしれないし、お天気も悪いかもしれない。だから、そうした公のものですと、どうも利用者本位ではなくて、介護をしてあげる、サービスをしてあげるという感じのものですから、決められたことしかやれません。
もう1つの例としては、食事を作ってもらう時、かなりの高齢者の方が「甘い卵焼きを作って欲しい」と言って頼んでも、「甘いのは体に悪いからこれくらいのものにしておきなさい」というわけです。その人にとってはかなりの高齢ですから、「長生きもしたくないし、今食べたいものをおいしく食べたい」、というのがその人の願いでなのですが、「基準として甘いものはこれ以上摂っては行けない」ということでやってもらえない。
このようなことでは利用者主体といえない訳ですので、先ほど言いました社会福祉基礎構造改革の視点は利用者主体ということです。そして福祉における評価基準で一番大事なことは、利用者主体のサービスで、何が利用者主体なのかという点です。
勿論、甘えさせ過ぎも良くない訳で、出来るのに何でもやってあげるのも返って良くないので、自立支援もその理念の大きな柱となっております。何でもやってあげると、自分で出来なくなってしまうので、出来ることはやって頂く。それから、自立できる為の支援をするということです。
ただ、ここで介護保険について時間を取らせて頂きますが、ご存知の通り介護保険についてはいろいろな問題点が出てきておりますが、1つだけいいますと、要介護認定のところで、例えば、おばあちゃんが介護が必要だから介護保険の認定をして欲しいと申請しますと、自立できるかどうかについて85項目の質問があり、それをコンピュータで判定する訳ですが、この85項目は、問題行動が有るか無いか、食事に関して、入浴に関してなど7つの分野に分かれており、それぞれ自立度が1から5まである訳です。ただ、訪問調査では自立度をその場で決めるのではなくて、出来る、出来ないということを聞いて、かかる時間を分単位で見て行きます。
要介護認定の区分は、軽いほうから要支援(要介護状態となる恐れがある)、要介護度1(部分的介護を要する)、要介護度2(軽度の介護を要する)、要介護度3(中等度の介護を要する)、要介護度4(重度の介護を要する)となってゆき、介護の必要度が最も高いのが要介護度5(最重度の介護を要する)で、最も高いサービスを受けることが出来る。
1番高い要介護5というのは、月額利用限度額35万8300円分のサービスが受けられます。これは、毎日、朝、昼、晩とヘルパーさんに来てもらえ、それと、訪問看護で看護婦さんに週2回来てもらえ、訪問リハビリが週1回あります。1番軽いのは要支援で、6万1500円分のサービスが受けられます。
ここで問題なのは、例えば、状態の悪い人は介護度が高くならなければおかしいのですが、そうしたときの判定ですが、どれだけ時間がかかるかによって判定するものですから、全然出来ない人と出来たけれども状態が悪くなって援助が必要だという人が逆になって、援助が必要だという人の方が、時間が少なくなってしまったということが今日の新聞でも載っていました。
介護の必要な時間(要介護認定等基準時間)が30分以上50分未満だと要介護度1、50分から70分未満だと要介護度2、110分以上かかると要介護度5です。ところが、介護にかかる時間が少なく判定されてしまうことがあります。
今まで32分かかって要介護度1であったものが、体が衰えて調査されたときに両足で立てるかという項目で、出来たものが支えが必要になったところ、機能訓練の表によると「出来る」と評価されたときは9分であったものが、「支えが必要」と評価されたときはこれが2分に変わってしまったので、全体を合計すると32分であったものが25分になってしまった。他にも逆転して下がってしまったものがあり、国の基準でなく市町村独自の基準を作っているところもあります。
介護保険については、いろいろな企業が参入してきておりますが、その他にも、これまでボランティアでやってきた市民団体が、NPO法(特定非営利活動促進法)が出来たことを契機として法人化し、県知事から介護保険の事業者と認められ参入するものが非常に多くみられております。
全国では去年の4月から10月までに885団体がNPO法人化し、認定待ちの団体が516もあります。一番多いのは東京都で180、大阪府で77、愛知県は21団体が認められております。これらの多くが福祉を目的としており、今まで自分たちのグループだけでボランティアとして介護をやっていたところが続々と法人化しつつ有ります。
そうした人たちと企業、それから社会福祉協議会などいろいろなところが介護保険に参入してきております。

3.社会福祉における公私の役割
今までは福祉は公だと言うことで分類がはっきりしておりましたが、今はそうした垣根がとれ、境界線が少しづつ無くなって来て居ります。例えば、今までは公が税金を財源としてサービスをやってきましたが、だんだんと民間のNPOが参入し、一般企業も参入してきました。後は「私」の家族や隣人同士の助け合い。一応の垣根は残りますが、こうして垣根が取り払われ民間も私も公のものも入り混じって、サービスが提供される段階に来ていると思います。
但し、公の責任が無くなってきたのかというとそうではなく、介護保険法に有りますけれども、そのサービスの基盤を作るのは保険者である市町村です。サービスが少なければ、例えば、ヘルパーを育成したり、介護の施設を作るなどサービスの基盤を充実させるその一端の責任はまだ公にあるわけです。それを忘れてはいけないと思います。
介護保険が出来たからと言って、公の福祉の責任が無くなったり、少なくなったという訳では有りません。介護保険は、まだ半分は税金で、後の半分が保険料ということです。
次に、企業、NPO、行政の共同による質の向上についてのお話に入ります。
その例として、社団法人かながわ福祉サービス振興会を見て行くことに致します。神奈川県では、昭和59年に県主導による「神奈川県福祉機器開発協議会」が設立され、その後、平成2年に民主導による「神奈川県在宅福祉サービス事業者協議会」が設立され、それぞれ独自の活動を行なっておりましたが、県の政策提言機関「シルバーサービス振興検討委員会(委員長=深谷昌弘慶大教授)」による福祉連合組織の必要性についての提言に基づき神奈川県が関連団体に呼びかけ、産学官民による「かながわ福祉サービス振興会」を作りました。会員は、正会員43社、賛助会員45ほどあり、そこには、パラマウントベッド、東京海上火災保険、神奈川県社会福祉協議会、神奈川県商工会議所連合会、大学関係者なども入っています。主な活動内容は、介護情報提供システムの開発及び運用、各種セミナーの開催、かながわ夢モデルタウン(バリアフリー情報館)の運営、サービス評価制度の研究などです。 http://www.rakuraku.or.jp
ネットワークで結び情報提供を行なうというのが大きな特徴となっており、重要なのはどのような福祉サービスがあるかが分からなければ利用者主体ということが出来ませんので、福祉サービスを提供すると同時に情報提供が大きな役割をになっております。
もう1つの例は、「介護ネットワーク協議会ふくおか」です。これは、企業が集まってNPO法人を設立し、福祉を地元でやりたい、介護保険で保険料を取られるのにサービスが地元に無くて大都市から来る、これはおかしいのではないか、だから地元産業界で福祉サービスをやろうというのが出発点になっています。
それには、いろんな企業が集まってNPOをつろうということで、建築会社、弁当屋、ビルメンテナンス会社、タクシー会社、保険会社、薬局、銀行、人材派遣会社、クリーニング会社、警備会社、など126社が集まっています。主な活動として、介護に関するセミナー、介護・福祉に関する情報の収集・発信、介護に係わる団体・個人のネットワークの形成、介護に係わる苦情・困難の解決支援、資格取得の為の養成講座の開設、介護に係わる受託業務、等が挙げられています。(設立趣旨などビデオで紹介)
このように、保険料を地域の中で還流させるというこの試みは、利用者にとっても24時間すぐ来てもらえて心強い。
テレビの番組で、介護サービスの良い所に転居するという介護移住について放送しておりましたが、秋田県の鷹巣村という福祉・介護サービスが充実していることで有名なところに83歳のお年寄りがたった一人で埼玉から移住し、「私はここで自立できる限り自立する。なぜなら、ここにはいざというときの安心がある」と話していました。
介護も医療も整っており、安心できるからこそ、自立できる。安心が担保にあるから自立できる、なるほどと思いました。
介護保険は、本当は財政が苦しいから保険にしたという面があるわけですが、本来、介護移住というのはおかしい訳です。皆が自分たちの町で介護サービスを充実させようとすれば、誰も移住しなくて済む訳です。
自分たちの町の福祉を自分たちで充実させようという場合に、企業の役割が非常に大きいと思います。企業は、いざとなったら今の例のように連携して情報や財力を集中する力もありますので、企業が連携して福祉に貢献することは重要です。
ある調査で企業の社会貢献について訊ねたら、8割以上の企業が社会貢献をしていると回答したが、その中身は、寄付をしているとか、空き缶集めをしているとか、ボランティア休暇を与えているというものが大部分です。
まだまだ、企業の福祉に対する貢献度は小さいようです。これからの企業は地域への貢献が更に求められると思います。住民も企業に対して、寄付せよということでなく、自分たちの声を企業にも伝え、企業もそれに対して答えてを返すことによって地域が更に良くなってゆく。行政は行政なりに基盤を提供し、これからは、住民も企業も行政も協力して地域福祉のパートナーシップを形成し、地域福祉が向上してゆくのだと思います。(以上)



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