「中国脅威論」を巡って
−過小評価も過大評価も禁物−

日本銀行名古屋支店 支店長  武藤英二 氏 
(1月28日開催講演会「どうなる2002年の経済」より)

 中国に対する評価は、過小評価も過大評価も適当でないといえるのではないでしょうか。中国への直接投資は92年以降随分急ピッチで増えてきました。98年にアジア危機が起こり、投資水準は一時停滞していましたが、その後2000年からまた回復に向かっています。それに対し、ASEAN諸国に対する投資は落ち込んでいます。
 直接投資が拡大することは中国で造られる製品の強化に繋がります。その結果、中国からの輸出は好調に推移し、世界全体の輸出の伸びよりも中国からの輸出の方が一貫して上回っています。ということは、外国からの直接投資を背景によりよい製品が出きるようになり、その結果として中国から他の国に対して輸出が増えていることがいえます。
 そのような中、ペネトレーション比率(国内総供給に占める輸入品の比率)を見ますと、業種によってはかなり高い比率を占めているモノもあります。なかでも繊維関連は30%以上とその傾向が強く出ており、製造業全般でこの比率が高まっています。
 “なぜ中国への直接投資が進み、そこで作られる製品が輸出されるようになったのか”、そのひとつに「人件費が低い」ことが挙げられます(図表1参照)。それぞれ幅はありますが横浜と比べると30分の1、高くても15分の1程度の労働コストで済むことが分かります。安く、良質の労働力が中国進出の魅力になっています。そして、それに加えて道路や電気など有形のインフラのみならず、会計制度や法律制度など無形インフラも、 まだまだ不十分な面はありますが以前より透明性が増してきており、この点も進出要因に挙げられます。

 しかしながら、日本企業が海外事業を強化・拡大する理由をアンケート結果(図表2)から見ますと、中国進出は“低廉労働力確保による競争力強化”を目的にする企業よりも“市場拡大への対応”を目指す企業が多いことが分かります。従来、日本に工場があり日本で売るものを日本で造るのでは高いから中国に生産拠点を設けてそこで造って輸入する、しかしそれ以上に中国が大きいマーケットに成り得るため、中国で売るための大きい工場をつくろうという進出形態が多く見受けられます。加えて、日本企業の海外生産比率は、確かに上昇傾向にありますが、水準としてみれば、なお、米独よりもかなり低い位置あります。米独では、あまり空洞化論が叫ばれないこととの平仄でみると、海外生産の拡大のみをもって空洞化論に直結させることは、単純に過ぎる面を否めません。
 以上から、中国は着実に成長しており、その力を侮ることは適当ではない反面、いたずらに脅威論を振りかざすことも慎しむべきであるように思います。    (文責 事務局)







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