8.スマートバレー方式に学ぶ


 それでは、なぜ「産・学・官」なのか。どうして3者の協力が不可欠なのか。その具体的な成功例を我々はシリコンバレーの成功として学んでいる。


日時:1997年2月17日(月曜日)
会場:岡崎市情報ネットワークセンター
主催:スマートバレー・ジャパン、岡崎スマートバレー・フォーラム実行委員会
  (岡崎市、岡崎商工会議所、21世紀を創る会:岡崎、高度情報通信広域連係研究会、三河中央エリア経済会議)
後援:郵政省、中部通産局、愛知県、叶シ三河ニューテレビ放送、渇ェ崎情報開発センター
協賛:愛知産業大学、NTT渇ェ崎営業支店、岡崎信用金庫、潟Iリバー、鞄穴C銀行岡崎支店、野村證券渇ェ崎支店


 「スマート・バレーフォーラムin岡崎」として開催し、元JV:SVN事務局長ダグ・ヘントン氏の講演は、如何に「産・学・官」の協力が成功の為に必要であったかをかたっている。
 スマートバレー方式の成功は、まだまだ多くの事を研究しなければ我々のものにならないが、良い手本になると考えている。
 地域や企業が発展する為には、しかも、加速度的に発展・進化するには、また同時に、高度な情報化支援活動を通じて地域に役立つ新事業の創出の為には、大学や自治体の協力体制が必要であり、それでこそ既存の地域や団体、企業の競争力を向上させる事が可能となる。
(注)スマートバレー方式の研究に関しては、平成9年10月22日に「三河スマートバレーネットワーク」として設立され、その研究を行なう事となった。




― 元JV:SVN事務局長/ダグ・ヘントン氏講演記録 ―


基調講演「21世紀のコミュニティ創造を目指すJV:SVN」




 本日、岡崎でお話できることを大変嬉しく思います。私は、シリコンバレーから参りました。本日私がお話することがシリコンバレーを超えて皆さん方にも伝わってくることを願っております。本日お話するのは、21世紀に向けた情報化社会で非常に成功する地域社会に関しての新しいモデルです。
 私達はこのモデルをシリコンバレーで実験いたしました。
 この新しいモデルは、皆さん方の地域社会においても必ずうまく行くと感じております。  では、コミュニティについてお話しましょう。この話は、単に技術でなくて、地域社会コミュニティとして聞いてください。本日の私の演題は「経済コミュニティを構築する」ということです。
「市民起業家」と言われる人々が、シリコンバレーの活性化に重要な役割を果たしたのです。このジョイントベンチャー・シリコンバレーの例を引き、その関連でスマートバレー公社を設立した私達の活動についてお話しましょう。
 なぜある地域が他の地域より発展するのか、なぜシリコンバレーが大変うまくいっているのか。答えはすぐに判らないかも知れません。2つの事例をご紹介しましょう。
 アメリカの事例で、シカゴがあるイリノイ州とシリコンバレーの比較をしてみましょう。 イリノイ大学は、エンジニアの卒業生が米国で最も大きな大学です。シリコンバレーのスタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)はイリノイ大学程多くのエンジニアを出していません。
 シリコンバレーのスタンフォード大学が異なった哲学を持っていたのです。つまり産業界と密接に協力して新たな産業を起こそうと考えたわけです。
 このスタンフォード大学の有名な卒業生に、ビル・ヒューレット、デービット・パッカードの2人がいます。スタンフォード大学を卒業後、スタンフォード大学の学長が是非新しいビジネスを起こしたらいいんじゃないかと言ったわけです。私が言いたいのは、大学が素晴らしいということではく、大学と地元の産業界の協力が必要だと言いたいのです。
2つ目の例として、これはアメリカ南部の2つの都市です。アラバマ州バーミンガムとジョージア州アトランタという都市です。アトランタは先にオリンピックが行われたところです。大変有名な都市になっております。1957年に、このバーミンガムとアトランタは、ほぼ同じ規模で南部の代表的な都市でした。
なぜアトランタがこんなにも成功しバーミンガムはだんだん知られなくなったのでしょうか。1950年代大変重要な時がありました。アメリカでは市民権運動が盛んな時期でした。バーミンガムは産業界が市民権運動に対して反対の立場を取りました。一方アトランタでは、産業界は市民権運動に十分理解を示しました。
コカコーラの会長が産業界と市長に、この問題を共に協力して解決しようと言いました。 というのは、非常に強い地域社会がなければ強い経済界ができると思わなかった点にあります。
今日までアトランタは「お互いに憎しみ合うのには忙しすぎる」、これをモットーにしています。難しい問題を互いに解決し合い、繁栄してきたのです。これは産業界のリーダーシップが発揮された結果でしょう。この場合、産業界のリーダーが問題を解決する役割を果たしました。
 もう1つの例を2つの都市比較として申し上げます。
 これはテキサス州オースティンという都市です。もう1つはマサチューセッツ州ボストンです。ボストンにはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学があり、国道128号線に沿った大きな都市です。
 1970年代、国道128号線はシリコンバレーより大きく発達していました。多くの人達は、ボストンこそがテクノロジーの中心であると考えていました。ただし、今日ではそうではありません。最も重要な地域は、テキサス州オースティンです。何故オースティンが成功しボストンがそうでなくなったのでしょうか。
 オースティンでは大学、産業界、自治体が1つのチームにまとまって働いています。
 そして半導体の業界団体を作りました。これに多くのオースティンの企業が参画し互いに協力し合うチームという形で形成され成功しました。
 ボストンでは、産業界は決して自治体も大学関係も互いに協力し合うことがありませんでした。パソコン産業においてDECがその代表だった時にボストンでは他のところとの協力体制を組まなかったことが背景にあります。産業界と学術界と自治体が独立した垂直な形で行う形態でした。こうした風土に、その後の落ち込みの原因があるのです。
 一方オースティンは、大変に協力し合い、大変成功している地域となってます。
 そこで、ある地域がなぜ他の地域より発展するか、回答は「経済コミュニティ」という考え方にあると言えます。
 では経済コミュニティとは何でしょうか。これは単に生産コストが安いから、といったビジネスの慣習だけではありません。生産コストが低い地域は多々あります。ただし成功していません。いい大学や優秀な企業の存在、それだけでは成功しません。材料ではなくて、それがまとまった時の料理方法が重要と言えます。世界中で成功したコミュニティに共通して言えることは、「協力」です。経済コミュニティは、その中にあります産業界並びに自治体すべてが協力し合うことです。そしてこの経済コミュニティの定義は、活動的で大変優位に成功している地域です。と言うことで第1の点は、成功は協力によるということです。
 ではここで経済的な発達は、何を意味するか、に関し、様々な発達段階から説明します。 多くの人は、経済的な発達は、自分達の地域に外から企業を誘致することだと考えるでしょう。確かにそれも重要です。ただしそれだけでは十分ではないのです。
 中小企業が大きく発展していくような環境を作ることが重要です。経済発達は、やはりハイテクだという人もいます。ハイテクは、確かに成長産業でこれからも成長するでしょう。
 ただ私達の体験から言いますと、シリコンバレーのみならず、他の地域においても、技術を既存の産業に応用することで新たに雇用を増加することができます。単にハイテク産業を作るだけではないのです。
 シリコンバレーは半導体を既存の伝統的な産業に応用することで、新たな雇用を総出しています。半導体だけが富を生みだすものではありません。これを使って、例えば自動車産業が更に発展することもあるわけです。
 自動車産業は実はパソコンに次いで最も半導体を使っている産業です。ですから技術は手段であって製品ではないということです。
 地域社会はハイテクを誘致するだけでこと足りると思わないで、それを使って自らの産業を起こし、伝統的な産業を更に発展させることを考えなければなりません。それは次の点につながってきます。製造業は重要です。効率的にすることは、製造工程の中に技術を応用していくことによって可能です。
 今度はジョイントベンチャーのシリコンバレーの母体となっております考え方について触れていきましょう。
 グループ化される、産業集団を作っていくことを、産業クラスターと言いますが、技術産業、それから製造産業が輸出することによって富を作り出すことができるということです。大企業、中小企業共にそれぞれの産業集団を作っていくことです。この産業集団は、これだけでこと足りるのではありません。これを今度は地域社会、コミュニティがサポートする考えが重要です。それは経済コミュニティであり、最も重要なモデルと考えられている理由です。  では、経済コミュニティの各要素に関してそれぞれ見て行きます。
 シリコンバレーの例を上げてご説明いたします。
 まず、この地域の経済を推進している基幹産業は何でそれをどうしたら改善できるでしょう。そしてその価値はどうしたら高める事ができるでしょうか。地元の産業集団としてどのようなものがあるか、皆さんが理解しているかということです。
 マルチメディアの産業集団クラスターの例を上げてみます。このマルチメディアに関してはこちらでも非常に関心が高いと聞いております。このクラスターと呼んでいる集団の中がどうなっているかご説明します。
 集団を動かしているものが市場です。それからマルチメディアの場合はどういったコンテンツが提供されるか、それからこのクラスターに対して誰がツールを提供するか、そして産業集団を強くするためのインフラはどういうものがあるかということです。
 さてマルチメディアに関していくつか誤解があると思いますので、その辺りをご説明します。マルチメディアのクラスターは広い分野を含んでいます。これを動かしているものがマーケットです。マルチメディアをいかに使っていくか、ここで特に焦点をあてたいのが娯楽分野、エンターテイメントです。ゲームとか、映画業界などでマルチメディアが非常に使われています。マルチメディアは大きな産業集団を示すものだと考えています。ですからこのようなチャンスをうまく掴んだ地域が非常に成功を納めるわけです。
 大きなマーケットとしては、広告とかコミュニケーションだけではありません。例えば商取引といった分野もございます。また1番大きなチャンスがあるのが、教育、それから医療であります。遠隔教育や遠隔医療も関連してきます。この集団のキーは、コンテンツです。インターネットは既に普及しています。コンピュータもどこでも買う事ができます。
 ただユニークなのは何か、コンテンツです。そして新しいコンテンツを誰が出版し、情報提供するかです。これはマルチメディアの部分が非常に必要とされます。その下にマルチメディアの技術関連の開発会社。私共の場合は、シリコングラフィックスという企業がございます。そこのツールはマルチメディア業界で使われております。
 例えばジュラシックパークの特殊効果のシミュレーションなど映画の設計をしています。 サンマイクロシステムズという会社は新しい製品を開発しています。またオラクル社はニューネットワークのコンピュータを作っているソフトウェア会社です。こういった企業があり、ここが1番重要なラインです。
 もちろんこれらを全部サポートする上での基盤インフラが重要であることは忘れてはなりません。例えばジョイントベンチャーシリコンバレーの場合には、マルチメディアのクラスターにどういった組織が関わっているかということがわかると、関係者を全部集めます。
 そうすると産業界、企業、大学関係、そして地方自治体の人間が一同に会し、マルチメディアパートナーシップを形成しました。そこで一般企業に対し、マルチメディア分野で成功するには何が必要かを聞きます。1番の要求は人材でした。人材がなければマルチメディアの業界は開発できません。必要な能力を持った人達が不足しますとそれだけの産業を発展させることはできません。
 ですからそこで何をしたかと言いますと、シリコングラフィックスの最高責任者がリーダーとなって全国の教育機関に接触しました。共同して、マルチメディア業界に必要な人材を育成していったわけです。
 これをスキルズネットと私共は呼んでおります。つまり才能のネットワークです。こういった様々な訓練機関を接続するためにインターネットを利用しました。また産業界とも連絡を取り合いました。ですからどのようなニーズが産業界にあるかということが大学側でも知ることができます。これはクラスターにおける経済活動の例です。そしてそれらが各地域社会とコネクションをして、この場合には教育に関連した地域社会コミュニティの連携ですが、協力し合った上での解決策を見いだしていく例です。
 すべてうまくやっていくことは、なかなか難しいですが、これは1つのプロセスです。
では実際、コミュニティ、地域社会ではどのようになっているか見て行きます。各コミュニティは、例えば1つの産業であれ、その核となる能力を持っているはずです。例えば教育訓練システムがいかにいいかが、直接産業界と結びついています。特にマルチメディアのようなこれから出てくる産業界と密接に接続しています。
 それからインフラがいかに強いかということ。道路とか、情報に関するインフラも含まれます。
 それから環境が新しい企業活動を行っていく上で重要であります。
 それから大学が産業界と新しい技術に関してどれくらいに提携し合っているかという事も重要です。
 また、コミュニティが新しい産業活動を起こしていく上で十分な支援をすることも重要です。
 また、貿易とか、産業活動に対してコミュニティは十分なサポートをするかという事も重要です。
 日本では、国家レベルでこうした問題をこれまで何度も取り上げてきたように思います。 しかし、これがうまくいくかは、その地域社会が持っている独自の資産をこの問題にどれぐらい提供し、そして考え取り組んでいけるか否で決まると思います。
 さて、ここでシリコンバレーの例として、規制について話をします。この規制に関する問題は、新しいビジネスを展開する上で大きな障害となっていました。場合によりましては6カ月あるいは9カ月経たないと建物を建てる許認可の申請が下りないこともございました。新しい製品を開発する場合も、もっと長く時間がかかる場合がございました。これは全く受け入れられることではございません。
 そこで何が起きたかと申しますと、地域社会の産業界のリーダーが一同に会して、自治体の許認可担当者とミーティングを行い、いわゆるTQCのやり方を取り入れて規制が改善されるのにどれだけ時間がかかるのかと言ったことを検討してきました。
 非常にドラマチックな結果が出ました。シリコンバレーにあるサニーベイル町の場合、この許認可にかかる日数がもっと縮められるんではないかと動き出したのです。すべてのアプリケーションは同じような処理がなされていますから、アプリケーションの95%はもっと簡単に処理ができるだろう。恐らく残っている5%のみが許認可を下ろすまでに時間を要するというふうにわかったわけです。
 許認可にかかる平均日数は、現在68%も削減され、今日では許認可の総件数のうちの95%はその日のうちに下りることになっております。
 何でこれが重要か、その答えは時は金なりです。
 シリコンバレーでも企業がどんどん離れていきました。これは許認可に時間がかかり過ぎることが一因でした。アメリカの大きな半導体会社ナショナルセミコンダクターが、テキサスのオースティン市に大規模な投資を考えていました。許認可に対する平均日数を下げることができ、それで処理時間が削減できたことで、シリコンバレーに1億ドルの投資を決定しました。そして雇用も200の新しい仕事を生みだしたということであります。つまり如何にコミュニティが各企業活動のニーズに答えることができるかという1つの例です。
  教育の分野やインフラの開発に関しても同じような例がございます。コミュニティと産業界がうまく協力し合うことができました。その鍵は何か。
 市民起業家と呼ぶ人達こそが鍵です。市民起業家は、ビジネスに入っており地域社会の問題についても理解を示し、その中での様々な産業の問題を解決しようとする人達です。
また、政府の問題だ、その他の問題だとないがしろにはしない人達でした。また地域社会においても自治体においても、自分達の領域を超えて、産業集団と共に協力し合わなければいけないと考える人達も出てきました。
 その例としては大学の学長、それからマルチメディア産業の人達と協力し、産業界が必要とする人材を育成することができたことが1つの事例として上げられます。
 この市民起業家は、決していつも1人でやるのではなくそれをサポートする「組織」を作ることが必要です。そういった組織が、例えば企業と産業界、官民の協力でできることもあるでしょうし、第3セクターでできることもあります。または非営利の団体、組織でできることもあります。スマートバレー公社は、第3セクター方式です。
 産業界の問題をコミュニティの人達と共に解決するということでジョイントベンチャーのシリコンバレーネットワークが非営利機関として設立された訳です。ヒューレットパッカードの社長はいわゆる産業界の代表、そして市長が自治体の代表という形で設立されました。3分の1が産業界の人間、そして自治体から3分の1、3分の1は学術大学関係、並びに地域社会の市民という構成です。これがジョイントベンチャー方式です。
 さてこのジョイントベンチャー方式に関しまして、重要な6つの原則についてお話しましょう。
 原則1は、コミュニティ、地域社会が責任を持たなければならない。経済に対する責任を持つということ、これが第1に重要です。これはどういうことかと言いますと、1992年は、国防予算の削減など大変に厳しく、私達の問題を解決するのに国に頼るわけにはいかなかったことがあったんです。
 私達の地域社会は自分達の2本の足で立って、自分達の将来は自分達で作るんだ認識しました。また基本的には非難をし合う風土をやめようと考えたわけです。互いに非難し合う文化をどうやって克服していくかを考えたわけです。実はこれは最も重要な点です。つまりお互いに非難し合って終わりといった風土そのものも変えていかなければ協力体制は作っていけないからです。
 第2の原則は、今の経済は産業クラスターによって成り立っている、産業クラスターこそが地域の経済を動かすんだということです。自分達の地域経済で、何が重要かを認識するのが第2原則です。例えばマルチメディアの産業集団であれ、製造の集団であれ、どういうものが必要か、耳を傾け問題の解決を図ることをしなければいけないわけです。
 私達の場合は2つの重要な問題がありました。
 1つは規制でもう1つは教育です。産業界はこういった点についての改良が必要だということを言ったわけです。それに対し私達が対応し、そして継続的な改善を図っているのが現状です。
 これは丁度TQM、品質管理の手法と同じです。自分達の地元の産業は自分達のお客様でもあるわけです。そしてそれに対し地域社会は資源を提供する、提供者でもあるわけです。そしてこの地域社会の経済を改良するためには互いに協力することが重要なわけです。継続的な改良が、品質改善の方法であり、大危機の時だけ解決を図るのではなく、継続的に行うことが重要です。前に話しました市民起業家、つまり産業界と、それから地域の市民が互いに協力し合ってこれを行っていったわけです。
 単に問題を検討するだけではありません。やはり実行しなければいけない。実行する決意を持って実践していくのが、次の重要な原則です。
 さて、原則を申しましたけれども、第2原則産業クラスターについてもう少し触れます。 経済が開放され、グローバル化し地球規模になってくると、地域社会はもっと重要になってくると、ある種の逆説があります。米国では、貿易障壁がなくなってきて、直接投資をしたり、自ら進出することが活発に行われるようになりました。経済地域の境界は国境を超えていくわけです。国境とは異なっているわけです。
 シリコンバレーには27の都市がありますが経済地域という形でクラスター化して、すべてまとまって団結しています。つまりこういった産業集団が経済の地域を大きく推進するわけです。地域として自ら自分達の富を生成し、グローバルな経済の中で自らを発展させていかなければならないことがあるからです。
 自分達の比較優位は何か。そして輸出指向型の産業集団を如何に作っていくか、それによって多様な仕事を創出することができると。これを如何に行うかを考えなければなりません。こういった産業集団を形成しますと、ある種の連鎖があります。大手企業がサプライヤーとなり、いろんなものを提供するう形で一連の産業界の流れができ上がってきます。そこで自ら決断し、自分達の産業集団として必要なのは何かということをまず考えなければいけない。
 岡崎地域の産業集団はシリコンバレーとはまた異なるものでしょう。大阪とも違うでしょう。それぞれの地域が自ら共同チームを結成し、そして自らの最も最適な産業集団は何かを考え、そして協力することに鍵があります。こういった協力のチームを自治体と政府、それからまた産業界、大学で結成し、そして主要な産業集団と共に協力体制を取らなければ、地球規模の競争力を失い、地域の競争力を失うということになります。そして自分達の主要な産業が消えて空洞化が起こります。結果として生活水準が下がっていくかもしれません。
 成功した地域もあり、そして成功しなかった地域もあります。もっとも悲しい所はアメリカのミシガン州デトロイトです。かつてはアメリカのトップを行っていた地域です。
現在は完全に空洞化して、すべてを失った悲しい地域になっています。人口のみならず産業も消えた都市になってしまいました。やはりグローバルな形で国際競争力を持ち、そしてその中で競争を勝ち抜いて、地域として発展する大きなビジョンをを考えなくてはなりません。
 岡崎地域の市民起業家となりうる人はどのような人でしょう。地域のリーダーとして、この変革の推進を行う担い手がいらっしゃいますか。
 そうしたリーダーはチームとして互いに助け合い、また将来のために手を取り合って努力をしていますか。これこそが最も重要な点になってきます。
 では、ここでジョイントベンチャーを例としてエピソードを話します。ジョイントベンチャーのプロセスです。これによって市民起業家達が共同し合うための1つのルートを作り上げることです。1992年にビジネスのリーダー達を集めグループを作りました。そこで何が問題か、それに対する対応策を考えてもらいました。非常に良いプロセスがあったので協力体制ができたということです。
 例えばシリコングラフィックス社のエドワード・マクラッケン社長は、地域社会のコンピューター業界のリーダーシップを取り、多大な尽力をして頂きました。またソフトウェアの業界のリーダーもいらっしゃいますし、それから教育分野からのリーダー、その人達が一緒になって21世紀に向けての教育のイニシアティブを作り上げてきた。教育システムは21世紀に向けての十分な資質のある卒業生を作り上げるだけのものにはなっていませんでした。
 こうした産業界と教育分野が共同してまず基準を設定したわけです。そしてスタッフの学校に教育のやり方などを再考してもらうことで取り組みました。そして強力な企業のリーダーがいたので2,300万ドルをかけ23社から資金協力を得ることができました。
 このプロセスは「チャレンジ2000」として知られています。単に資金供与をしてもらっただけでなくて、必要な設備と人材を得ることができました。
 現在2万3千人以上の学生がカリキュラムの改善や、技術の改善に取り組んでいます。
 なぜエドワード・マクラッケンのような忙しいビジネスリーダー達が、コミュニティに対し尽力をするのか。
 まあ市民起業家として彼自身が言ってる言葉ですが、私の会社であるシリコングラフィックス社は、情報文化におけるリーダー社であると。
 従業員の才能と質によってのみ、この厳しい社会を生き延びていける。ですから毎晩仕事が終わると、その地域社会の会合に参加します。資質の高い学校、質の高い生活、ストリートが安全でないと人が去り企業活動が成り行かなくなる、というのが彼の理論です。
 つまりビジネスとコミュニティの境界ははっきりとした明確なものはない。
 21世紀に向け成功する地域社会は、経済コミュニティでなくてはなりません。それは市民起業家が推進していくものでしょう。同じビジョンとリーダーシップ、忍耐力といったものを地域社会に持ち込むことです。これは一般の企業家が成功する会社を作り出すために用いるのと同じ理念、集中力、忍耐力と同じものを経済コミュニティを作り出すために用いること。これが市民起業家です。また市民起業家は経済とコミュニティの仲介人の役目を果たすべきという定義です。
 起業家(アントレプレナー)という言葉は、元々フランスでは仲介人という意味を示しています。起業家は単に常に製品を作り出す人で発明する人とは限ってません。起業家とは、その製品をいかに市場に送り出すかを知っている人物でなくてはならないのです。
 最後に、スマートバレーで実行している具体例を上げてご説明します。
 スマートバレーに関しては、ジョイントベンチャーのプロセスを更に超えた状態にまで発展してきていることが重要なポイントです。
 スマートバレーは非常にシンプルな1つの条件があります。技術を使っていかにコミュニティを改善していくかが最も重要なポイントです。カリフォルニアは、情報技術の発明者で、その元となるのがシリコンバレーです。46から50の州に対し、我々の学校のコンピュータを使っております。その中でワークコースはどうなっているかですが、単に技術を発明するだけでは十分ではありません。
 スマートバレーが行っているのは、その技術を応用して経済と生活の質を向上させることです。この情報技術を医療、教育、行政に如何に応用していくかをわかっていますと市場活動に関しても将来非常に発展することになります。スマートバレーは現在11ベンチャーのモデル分野があります。
 1つがスマートスクールです。現在インターネットに我々の校区の70%が接続をしています。これは全てボランティアの活動で賄われております。1996年の3月とそして10月に、何千人という起業家の人達または教師、両親が学校に集まり自分達の体を使ってインターネットの接続を行ったわけです。3,000以上のパーソナルコンピュータのパーツを使いまして、組み立てもしました。そしてそれらを使えるようにして、学校へ寄付をした訳です。何でこういうことをしたのか。ヒューレット・パッカードの社長がこのように言ってます。強力なコミットメントがなければ強力な経済をつくり出せない。
 これはやはり市民起業家の精神であり21世紀に向けて地域社会をいかに作っていくかという問題です。そうすることで非常に質の高い雇用を促進できますし、質の高い産業集団で組成される雇用ができるわけです。そしてまた非常にスキルの高い、質の高い労働力に対するアクセスも取ることができ、そして最も高度な経済基盤をつくることができます。
 スマートバレーは、あくまでも触媒です。プロジェクトを進めるうえでの触媒であり、それによって新たな経済コミュニティを作っていくのです。それにより新しい技術が使えるだけでなく、より強い地域を作り上げていくことができると考えます。
 ですから皆様方にここで挑戦として考えて頂きたいことは、どのようなコミュニティを作りたいのか、 そしてそのために尽力を捧げようとする市民起業家がいらっしゃるのか、それからそのようなコミュニティを作るために如何に技術を使っていくか、それからここでなされることは他でも見られることではなくて、当然ながらユニークでなければならないということだと思います。
 でも、もうたくさんのチャンスもあるようですし、非常に素晴らしい事業が展開されていると聞いてます。特にマルチメディアの分野では。ですからここで1番の問題は、産・官・学が共同したチームを作ることです。そしてそれによって21世紀に向けての経済コミュニティを作り上げていくということです。ご静聴ありがとうございました。



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