ファイナルセミナー 会議録




平成10年コーディネート活動支援事業 ファイナルセミナー
開催日時:平成11年2月24日(水)15:00〜18:30 於:岡崎情報開発センター  出席者 :58人
コーディネーター:草間晴幸 大阪大学大学院助教授
   同    :服部良男 岡崎商工会議所情報化委員会委員長
内容:以下の通り。

「草間コーディネーター開会あいさつ」
 皆さんこんにちは。岡崎商工会議所では本年度、通産省・中小企業庁・中小企業事業団の「新規成長産業連携支援事業・コーディネート活動支援事業」 の指定を受け、これまでキックオフセミナーを皮切りに14回の新事業創出研究会と4回の産学研究会を行って参りました。
 本日はその事業の総まとめとして『日米欧の地域活性化事例紹介』と題して、イギリスのノッティンガム大学シニアレクチャーの崔宏昭先生からイギリスにおける地域活性化と産学連携の取り組みについて、北海道東海大学教育開発研究センター教授の川崎一彦先生からは北欧地域での地域活性化と産学連携の取り組みについて、名古屋外国語大学国際経営学部教授の柴田祐作先生からは日米の地域活性化と産学連携の取り組みについてそれぞれご講演いただき、産学交流・連携の新たな取り組みを考えその実現方法と可能性を探ってまいりたいと思います。
 では、崔先生からよろしくお願いいたします。

1. 「イギリスにおける地域活性化事例紹介」
 The University of Nottingham,Senior Lecturer 崔 宏昭氏

 ご紹介いただきましたノッティンガム大学の崔です。今日は地域活性化と産学連携についてイギリスにおける事例をお話しいたします。
 イギリスにおいての地域活性化の必要性は、ヨーロッパの経済統合が始まってビジネスの国際化が進み、人材も移動しやすくなって産業構造が変化してきたことがあげられます。
 地域の活性化にはヨーロッパ全域や中央政府はもちろんのこと、地方政府や大学、リージョナル・デベロップメント・エージェンシーズ(地域開発局)などがどう関わっていくかが大きなポイントになってきます。
 地域活性化のためには地域は競争力を付けなくてはいけません。それには生産性・技術革新・人の技術(スキル)の向上がなされなければ達成できません。

 地方の競争力を計る指標として、技術革新については企業が研究開発にどれ程資金をつぎ込んでいるのか、特許などの出願はどの程度なされているかなどで計ることが出来ます。
 スキルについては大学や職業専門校への進学率で計ることが出来ますし、生産性については人口に対する実際に働いている人の割合や所得水準、資産価値などで計ることが出来ます。
 さらには雇用構造や投資を呼び込む力なども要素の一つで、最終的にその地域の競争力はGDPで計ることが出来るのです。

 地域の話をする前にイギリスの国としての競争力を見てみますと一人当たりのGDPはヨーロッパの平均を100とするとイギリスは99とほぼ横並びですが、フランスは107、ドイツは117と高くなっています。
 研究開発にどの程度支出しているかは、GDP比で、イギリスは2.2%、フランスは2.4%、ドイツは2.8%と大きな差はありませんがこの中ではイギリスが一番低い値となっています。
 スキルの度合いとして中等教育を終えている割合を見るとイギリスは66%、フランスは79%、ドイツは83%、ヨーロッパ平均でも71%でイギリスは低い値となっています。
 失業率はイギリスが7.1%、フランスは12.5%、ドイツは9.7%、ヨーロッパ平均で10.7%とイギリスが一番低く、雇用情勢は意外にも比較的恵まれています。
 所得税率を見るとイギリスは34.4%、フランスは42.8%、ドイツ40.5%、ヨーロッパ平均39.6%となっており、イギリスは負担が軽く外国からの投資が入り込みやすく、その割合はイギリスが19.6%、フランス15.9%、ドイツは5%となっています。

 さて、ノッティンガムがありますイーストミッドランドの地域はイギリスの中央に位置し、6つの地区を合わせて人口は400万人、都市としてはノッティンガム市、レスター市、ダービー市などがあります。働く人の30%が製造業に従事しており、イギリス平均の22%を上回っています。伝統産業の織物や石炭産業は下向きとなっています。
 ではこの地域の競争力はどうかと言いますと、一人当たりのGDPはイギリス平均と似たようなものすなわちヨーロッパ平均よりも低く、研究開発についてやスキルについても少し低い程度です。ただし、働ける人の率は高くなっています。また、投資を呼び込む力は高水準です。

 これからこの地域が発展していくための戦略としては、中小企業が競争力をつけるためにももっと投資をしやすいように配慮すること、地域外や国外からの投資を促進する、スキル向上のための投資をする、ビジネスや交通・通信のインフラをもっと強くしていくことがあげられています。
 その方法の一つとしてリージョナル・デベロップメント・エージェンシー(地域開発局)というものが今作られていますが、ブレア首相は、この地域開発局の目的は地方の競争力向上のために、地方の情報が把握できてすぐに対処出来るような組織にしていくことであると話しています。
 また、プレスコット副総理は、一人当たりのGDPがヨーロッパ平均を上回っているのはイギリスでは12の地域のうち2つだけで、一方フランスは8地域のうちの3つが、ドイツでは16地域のうち11もの地域が上回っている。これでは太刀打ちできないので、地域の活性化を図る必要があると話しています。
 地域開発局の目的としては中小企業が競争力をつけるために投資ができるようにサポートする、スキルを高める、雇用出来る体制づくりをすることをあげています。
 さて、これまではイギリスのヨーロッパでのポジション、イーストミッドランド地域のイギリスでのポジションについてお話してきましたが、これからが本題となりまして地域の活性化が大学とどう関わっているかについてお話いたします。

 ノッティンガムはロビンフッドがいたと言われる土地で、大学は非常に環境の良い所にございます。
 大学の大きさとしては正規の学生が14,000人、パートタイムの学生が8,000人程います。これは元々本学がアダルトスクールで成人教育を中心におこなっていたことが理由です。芸術から法律・社会科学、教育、科学、工学、薬科・健康科学まで揃った総合大学です。
 大学と企業がどの程度つながっているかを、大学の収入面で見てみますと、55%が国からくるお金と授業料で、残りの45%のうち半分程度は研究費でさらにその三分の一が企業からのものです。他の大学でも似たような数字ではないかと思います。
 企業と大学は研究で結び合っておりまして、地域開発局が出来た頃と同じ時期に学内でリージョナルユニット−パーパスという組織が出来て、専属の職員8名程が企業との窓口業務を行っています。
 研究に噛み合った所を見つけること、大学に合った収入源を捜すことが主な仕事で、国内およびヨーロッパ全域を対象にしています。

 事例をあげてみますと、まずSMART(Small firms Merit Awards for Research and Development)という、イギリスの通産省に当たる所が中小企業の製品開発を支援するプロジェクト。また、一つはPAT(People And Technology Scheme)というプロジェクトでヨーロッパ全域を対象にしたもので額も大きくなっています。
 それぞれの国のインフラを強化し、産業構造の変革のために使われています。中小企業の技術革新のスキルを向上させるためのプロジェクトです。例えば工場団地に教育センターを作って押し付けではなく従業員達のリクエストに沿って教育を受けられるプロジェクトなどがございます。

 また、Teaching Company Schemesというプロジェクトのうち、今は民間の機関が運営していますが、一つ例をあげますと、下水処理の製品を作っている会社において、今までの鋳物の材料から複合材料に変えていきたいとした時に、大学から技術の移転をすることになりました。
 そのやり方がユニークで、そのプロジェクトのために大学と企業で人を雇ってその人が専門で研究開発にあたりそれをコアとして新しい技術を立ち上げるというものでした。
 今はその人はその会社でディレクターをやっていますが、企業にとっても大学にとってもメリットのある方法で、4年で売上を18%伸ばし、利益も34%増やすなど製品の品質を向上させ、生産のコストも下げました。その資金は国や地方からきています。

 もう一つは、中小企業がどんな経済的状況になっているのか政府は知りたがっているのに、中小企業の考えや意向が伝わって行かないという事態に対処するため、大学がEメールでアンケートを行っています。
 調査項目としては政府による立法や政策はどう思いますか。需要動向はどうですか。人材は足りていますか。ビジネスのパフォーマンスはどうですか、その他その折々の問題などについてインターネットを使って調査しています。
 集計はコーディネーターが行って、その結果はアンケート先へはもちろん、政府や地方の行政機関、さらには日本の日銀にあたるバンクオブイングランドへも送られて金融政策の参考にもされます。こうした調査もこの組織の大きな仕事の一つです。

 時間も迫って参りましたのでまとめに入りますが、最初にも申しあげました通り、ヨーロッパの経済統合はビジネスの国際化や人材の移動をうながし、ヨーロッパ中の産業構造に変革をもたらしました。
 地域の競争力向上のカギは、技術革新とスキルと生産性が握っている。大学も地方の活性化に大きく関わっていて、地方や中央政府さらにはEUと強く結び付いて活動し、地域の競争力を向上させ活性化しようとしています。
 ちょうど、時間も参りましたので以上でイギリスにおける地域活性化と産学連携の取り組みについての説明を終わりとさせていただきます。

「草間」ありがとうございました。産学官協調というのは生まれて久しいのですが実績があげられていないのではという意見もございますが、今日の崔先生のお話は地域活性化における産官学、地域開発局についてのお話は大変参考になりました。
 また、研究会でもそうしたことを研究させていただきたいと思います。ご質問がございましたらお願いいたします。

Q:こういう話はあちこちでよく聞きますが、一種の実験だと思うのです。何か新しいことをやるのに小さなスケールでモデル実験をしてうまく行きそうならばだんだん大きくしていきます。
 一度に地方全体・国全体で行っては危険だと思います。実際にこうした方法でうまくいったのか、それを日本に移転できるのか、実験的なアプローチはどうなっているのか、また、評価の方法はどうしているのかについてお尋ねしたいと思います。

A:私のお話したリージョナルデベロップメントエージェンシーというのは、この4月からスタートしますのでその効果の程は分かりません。ただし、私が例としてあげたプロジェクトはパイロットプロジェクトと考えていただきたい。
 先程申しあげましたPATというのはそのプロジェクトの中に評価団も入っていまして、始まる前の状況と終わってからの状況を比べてどのように変わったのかを三年間で調べます。私はこうやったら絶対うまく行くというようなことは申しあげておりません。
 また、ティーチングカンパニーというプロジェクトは10年くらい続いていますので、ある程度続いていることは効果があがっていて評価できるものだと思います。

Q:この地域開発局はどこかのユニットに属するのかお聞きしたい。縦割り行政では非常に難しい分野だと思うのですが。通産省だけでは対応できず、労働省とか文部省とか色んな役所に関わる分野だと感じます。そうした縦割りの弊害にどのように対処しているのかお聞きしたいと思います。

A:説明を飛ばしてしましたが、チェアマンがいましてその人は総理が任命することになっています。
実際に活動する人は産業界とか大学とか地方行政の人達から選ばれています。これは4月から始まりますので今大急ぎで作っている最中です。メンバーは地域から選ばれます。地方の政府ではございません。
「草間」時間に限りもございますので続きは交流会の席でご質問いただくとして、次は北海道東海大学の教育開発研究センター教授の川崎一彦先生から「北欧地域での地域活性化と産学連携の取組」と題してご講演いただきます。
 先生は北海道東海大学の教授であると同時にストックホルム大学の太平洋アジア研究所の教授でもみえます。先生はジェトロで10年程スウェーデンに暮らして北欧地域の地域活性化に大変お詳しい先生です。では川崎先生よろしくお願いいたします。

2.「北欧地域での地域活性化と産学連携の取組」
  北海道東海大学 教育開発研究センター 教授 川崎 一彦氏

 ご紹介いただきました川崎です。画面を使いながら説明して参りますが、時間も限られていますのでヨーロッパあるいはアメリカとの違いが多少でもお分かりいただければというのが私の話のポイントです。
 私は年間の7か月程は札幌におりますが、3か月から4か月はストックホルム大学の太平洋アジア研究所で研究しておりまして年に4〜5回往復しています。
 今日は今なぜ北欧なのかについて、アメリカやEUとの違いが何なのか、北欧の産業クラスター構造はどうか、さらに北欧における具体的な地域活性化の事例についてサイエンスパーク・ハイテクパークを中心に産と学のつながり、官のコーディネート機能についてお話したいと思います。

 北欧との交流は気候が似ていることなどで、ここ四半世紀の間北海道が一番盛んですが、北海道でも産業クラスターを創造しようという動きが出てきております。時間がございましたらそのあたりもお話したいと思います。
 さて北欧はどこかと申しますと、スウェーデン・デンマーク・フィンランド・ノルウェー・アイスランドの5カ国を指します。人口はスウェーデンでも880万人、アイスランドは25万人です。
 北欧のイメージは福祉国家、森と湖の国、ノーベル賞、フリーセックス、金髪美人、遠い、寒い、ボルボ、テトラパック、ノキア、バイキング、スウェーデンポップス、ボルグ、エドバーグ、オンブズマン、サウナという答えが返ってきます。

 遠い国、寒い国というのは意外と当たっていなくて、ヘルシンキ、ストックホルムはロサンジェルスよりも近い訳です。距離だけでなく国民性も非常に近いものがありまして、ストックホルム大学の教授が調査して書いた論文では、スウェーデン人にとってはスカンジナビア人を除けば日本人が一番国民性が近い。ヨーロッパ南のラテンの人達やアメリカ人よりもスウェーデン人に似ていると結論づけています。

 その根拠は社会的に控え目であること、お酒は触媒、対立は回避、和が大切、現実的・実際的だという5つをあげています。そして世界で一番恥ずかしやりやは日本人とスウェーデン人だとも言っています。こうした傾向は北欧全体に通じることだと思います。
 フィンランドは北欧のうちでも少し言葉が違うのですが日本語によく似ています。前の首相の名前はアホでした。
 北欧は福祉国家のイメージが強いですが、女性の社会進出が盛んだというのもよく知られています。高齢社会のお手本でもあります。福祉にはお金もかかりますがその財源として世界的な企業がたくさんございます。

 次に今なぜ日本においてEUやアメリカでなく、北欧のことを見る価値があるのか整理してみますと、21世紀の日本の重要課題、例えば高齢化・国際化・情報化・価値観の変化・環境への対応・女性の社会進出などすべての分野で北欧はヒントを与えてくれるということです。
 世界標準と日本標準との乖離はよく議論されますが、日本の常識は世界の非常識とも言われますが、IBMの石田副社長はこれからは日本独自よりも日本で最初にこだわるべきだと言われていますが全く同感です。
 インターネットの普及率はトップはフィンランドで次にアメリカ、ノルウェー、アイスランドなど北欧勢が高い水準にあります。北欧は情報化でも世界の最先端にあると言えます。
 1995年時点で国内への直接投資が一番多かったのはアメリカで次いで中国、次はスウェーデンで、日本はアメリカの千分の一で、少なくとも日本は外国からは魅力が無い国と見られているようです。
 世界標準の基本的なものは英語ですが、外国人のための英語テストについて受験した国別で見ると、オランダが616点とトップで、次はデンマーク606点、アジアではシンガポールが597点、フィンランド593点、スウェーデン589点、ノルウェー589点となっていて北欧勢が占めていて英語がうまいと言われています。
 ヨーロッパにいますと、北欧人はイギリス人より英語がうまいと言われます。どうしてかと言うとスラングとかを使わないからです。日本は496点で外国に留学できるレベルではありません。日本より下の国は数えるほどしかなく、セネガル、モンゴル、クウェート位で北朝鮮でも日本より上です。日本人の能力がそんなに悪いとは思いませんが少なくとも英語教育のシステムは絶対に間違っていると思います。

 スイスにIMDという研究所があって毎年国別の競争力の指標を出していますが、トップはイギリス、2番がシンガポール、3番が香港、4番がフィンランドでノルウェー、デンマークという北欧勢がトップ10のうち4つを占めています。日本は5年前は3位でしたが、おととしは9位、去年は18位まで落ちています。

 日本で議論される標準は私が見る限りアメリカ標準でしかないと思えます。世界標準とはアメリカ標準だけかということを皆さんにお聞きしたいと思います。
 さて地域活性化の問題についてどうして北欧を見る価値があるかについて話を進めます。まず、北欧の産業構造は非常にハイテク構造であります。先程研究開発費のGDP比の話が出ていましたが、スウェーデンは3.5%で世界のトップです。日本は2.8%でドイツと同じ位。

 ハイテクパークというものがヨーロッパでも早い時期に北欧に建設されまして、アメリカとはかなり違うコンセプトで運営しています。北海道とか岡崎を見ると、私はシリコンバレー型よりも北欧型のハイテクパークの方が実現可能性が高いのではないかと思います。
 国際性については北欧は最初からヨーロッパ、世界を相手にビジネスをやっていて、例えば輸出入のGDP比は低い国でも35%あって高い国は50%で、スウェーデンの場合は工業生産の半分以上を輸出しています。最初から国内市場は念頭に無いといってもよいと思います。また、隙間戦略が明確で、他の大企業がやることはやらないという考えが主流です。

 起業家教育については日本でも議論されていますが、フィンランドでは幼稚園から起業家教育を始めています。今日のテーマである産学官の共同が非常にスムーズにいっています。
 それから、産業クラスターの戦略を忠実に実行しており、成果をみせています。日本では北欧の分配面の福祉政策ばかりが議論されますが、私の関心は生産面で産業が福祉の糧、具体的に言えば企業優遇政策、特にこれまでは大企業優遇政策が明確でありました。

 そして、隙間産業の育成がありますが、世界に通じる、競争力を持っている産業を育成することによって、完全雇用と個人の高所得を保障することがスターティングポイントです。所得は法人ではなく、個人の所得を保障する。高い給料をもらった個人が高い税金を負担できるようになっているのです。
 高福祉、高負担はあくまで個人であって法人ではない、企業に対しては非常に優遇政策を取っています。企業優遇税制というのがあって、最近では実質的な製造業の負担率は15%位です。独占禁止法はあるのですが適用されていません。

 小さな国なので一々独占禁止法を言っていては世界での競争力がつきませんので、企業はどんどん大きくなってくださいという政策をとっています。
 ただし、独占の弊害が国内で出たら輸入を自由化させて輸入品と競争させていくという考えがございます。その結果、7割、8割が海外の従業員で占められている企業が多く、売上は9割以上が海外での売上で、オーナーも海外のオーナーが非常に多くなっています。
 国内市場は余り当てにしていないという状況です。北欧にあるのは本社だけとか研究開発部門だけとかいう会社も多くございます。

 北欧の産業クラスターについて簡単に説明いたします。クラスターはぶどうの房とか魚の群れを表す言葉ですが、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した理論で、ダイヤモンドモデルと呼んでいます。
 国際的に競争力のある地域は、ノウハウとか技術、関連企業、要素条件、関連支援産業、需要条件などがぶどうの房のようにつながって集積している。例えばイタリアのファッション産業や日本の家電産業は、その需要条件であるうるさいユーザーがいてこそ、そういうクラスターが出来あがってきました。
 この産業クラスターの理論に最初に飛びついたのが北欧の国で、意図的に産業クラスターをさらに強いものにしよう、新しい産業クラスターを作ろうという努力をしてきました。
 例えばフィンランドの森林クラスターには、木材の伐採システム、生物学・化学のプロセス、電力、木材加工機械、製紙機械、トラック、製材機械、森林管理、コンサルティング、紙、パルプ、木材、合板、建材、家具、ハーベスター、計測機器、発電、石油、アルコール、印刷、梱包、建設などなどの業種がつらなって国際競争力のあるクラスターを作り上げているのです。

 北欧およびそに周辺で世界における競争力のあるクラスターがございますが、例えばオランダのフィリップス、スウェーデンのボルボ、エリクソン、ノルウェーのスタットオイル、デンマークのノボインダストリー、カールスバーグ、フィンランドのノキアなどを中心に産業クラスターを形成しています。
 ノルウェーでは国際競争力のあるクラスターとして石油、非鉄金属、海運、木、電力、魚、観光、研究などのクラスターが認められています。スウェーデンは鉄鋼、非鉄金属、鉱山、機械、森林、輸送用機器、汎用機械、電力、通信などが見つけられています。

 フィンランドは一番産業クラスターに熱心ですが強いクラスターとしては森林、半分強いクラスターは鉱業、基礎金属、エネルギー、潜在クラスターとして通信、ノキアは当時はここに入っていましたが今は非常に明確なクラスターをつくっています。環境、福祉、輸送があって、潜伏のクラスターとしては建設および食品が認められています。
 フィンランドの輸出を見ると、森林のクラスターから通信とか機械関係のクラスターにシフトしていることが分かります。

 なぜ、フィンランドが地域活性化や産業活性化策に熱心にならざるを得ないかと申しますと、一口に言えば旧ソ連の崩壊です。ピークの1980年代初めには輸出の四分の一が旧ソ連向けでした。旧ソ連向けの輸出はバーター貿易で、ソ連から買うものはほとんどございませんでした。
 買えるものは原油しかなかったのです。原油の値段が上がると自動的にフィンランドの工業品の輸出が増えたのです。しかし、1991年のソ連の崩壊後は3%までに減少しました。すなわち25%からほとんどゼロに減ってしまった訳で、25%というのは日本からアメリカへの輸出と同じ位です。

 失業率も増えてピークは20%近くまで達して経済も非常に深刻となりました。1980年代まではヨーロッパ平均よりは高い成長を遂げてきたのに対し、1990年代は最初の半分はゼロ成長でした。しかし、1990年代後半からはヨーロッパ内でも非常に注目を浴びています。その間の成長率は一番上がフィンランドで、スウェーデン、ドイツ、アメリカよりも高くなっています。
 その理由は旧ソ連の崩壊による危機感がバネになったと思います。フィンランドの再生から学べることは、フィンランド魂が馬力になっているということです。北海道の場合は拓銀が倒産したり、北海道開発庁が無くなることが決まってもまだ何とかなると思っている人が多いように感じます。
 それから、フィンランドの幼稚園からの起業家教育は、世界的にも非常にユニークなものです。地域開発、ハイテクパークの手法も違います。産学官の共同にもユニークなものがございます。キーマンと強いリーダーシップが必ず出てきます。

 私はストックホルム大学で学生に接する機会もありますし、北海道東海大学へは毎年20人位北欧から留学生が来ますが、日本の学生と比べると自立意識の違いが非常に大きいようです。北欧の学生は大学に入った時点で自分の職業を決めています。
 逆に言えば、自分の道が決まらない内は、外国旅行をしたり、仕事をしたりして色んな経験を積んでいます。一旦決めたら親のすねかじりは一切しない。学費は国からの奨学ローンや奨学金を自分の責任で借りて費用を払う、すなわち自分に投資する価値への意識が全く違う訳です。日本の学生はこうした状況でも授業中に寝ている学生が多いのです。日本の学生は親のために来ているというのが今でも多いのには驚かされます。

 起業家教育システムは北欧の場合、雇用機会の創出すなわち労働市場政策としての面と、成長産業の育成すなわち産業政策の面からの二つがございますが、バーサーという町の起業家教育を紹介いたします。
 フィンランドの起業家教育は外的起業家精神と内的起業家精神を分けて考えています。外的起業家教育というのが日本やアメリカで言う起業家教育、すなわち財・サービスを生産して付加価値を創造することのイニシアティブを取る人を増やすことですが、それだけでは足りないことに早くから気づいたのでした。そして、内的起業家精神の高揚を目指しました。

 内的起業家精神というのはフィンランドの学者が作った言葉ですが、中身は創造性・柔軟性・活動・勇気・イニシアティブ・リスク管理・方向性・協調性・モチベーションなどの前提条件を早くから教育しないと起業家は出てこないと気づいた訳です。フィンランドでは学校は公立しかありませんが、幼稚園から起業家教育を義務づけています。
 中身は創造性と勇気を育成する、活動の計画を先生が決めるのでなく生徒たちが自分達で決める、ルールも自分達で決めさせて責任を持たせる。教材も生徒に決めさせる、イベントやパーティーの企画実施も同様などの形で行っています。
 高校レベルでは企業の新設、中小企業の動向、外的起業家精神、イノベーション、経営の基礎、ビジネスチャンス・プランの作り方などを教えます。

 さて、これからサイエンスパークの事例を紹介します。スウェーデンのストックホルムの南にリンチョーピングという町があり1975年にできた大学がございます。ここが今北ヨーロッパで最大と言われるハイテクパークの核になっています。一方で軍事都市の面を持ちサーブの航空機部門があり産業の伝統がある町です。そして市が全面的にサポートし、大学に隣接してミャルデビイというハイテクパークがございます。
 このハイテクパークの戦略の特徴は、現在130のハイテク企業が入居していますが従業員総数は3,500人、面積は125,000平方メートル、1983年に北欧ではフィンランドのオールに次いで2番目にスタートしたハイテクパークです。象徴的なのはエリクソン(昨年まで世界最大のモバイルフォンシステムのメーカー)の研究開発部門が進出したシンボル効果が大きかったと言われます。

 また、スウェーデン北部にオーンショルズビークという町がございますが、民間主導で国立の起業大学を作ってしまいました。この町は1980年代から人口が減少し若者の流出、機関産業の伸び悩みに直面しました。
 今から4年程前に地元新聞に地元のビジネスマンがヨーロッパ一の起業大学を作ろうという提言をして、実に2年後97年の秋には国立大学の学科として起業大学が開校してしまいました。
 先程ノッティンガム大学が地域協力の部門を持っているというお話をされましたが、日本の国立大学は全くそうした意識はありません。国立大学は国のためにある、地域のためにあるのではないというのが文部省のスタンスです。これまでは全然変えることが無かった訳ですが、こうした2つの事例を見ても明らかなようにヨーロッパにおいては国立大学は地域のためにあるのが当たり前となっています。
 オーンションズビーグの起業大学を見ても強いリーダーがいたこと、危機感がバネとなっていること、民主導で国を動かしたことなど産業界のイニシアティブがあったことが特徴だと思います。

 次にフィンランドの北に人口10万人程の小さな町オールがありますが、ここに北欧最初のサイエンスパークが出来ました。1959年創立の大学が核になって、それまでのアカデミックな考えにこだわらない創造性のある研究者が集まってきたことが研究開発できるようになった背景のようです。
 そして、最初にノキアという成長起業が立地し他の企業も安心して立地できた点があるようで、産学官のネットワークがうまく機能している。このハイテクパークの名前はテクノポリスと言います。1982年にスタートして、現在120社、情報・バイオ・メディカルなどの企業が入居しており2,700人の従業員が働き、85,000平方メートルの敷地がございます。
 さらに1992年には医学部に隣接してメディポリスというメディカル、バイオ専門のハイテクパークを建設しています。

 今までの例の共通点を見ると、伝統が無くて比較的新しい地域、大学であること、強いリーダーと長期的なコミットメントが必要であること、全体像が分かってビジネスのセンスがあるコーディネーターがいることが重要です。日本の場合は民間企業で働いた実績のあるコーディネーターが少ないことがネックとなっていると思います。
 フィンランドでは市の職員がコーディネーターの役割をしていますが、プロジェクトベースの雇用スタイルとなっています。サイエンスパークを作るために民間からヘッドハンティングをして5年契約などをいたします。ユーロが発足して大変な活気ですが北欧ではこれまで終身雇用が一般的でしたが、今は期限付きの雇用形態がほとんどになってきました。

 もう一つ極端な例としては私の知人で、フィンランドの国立大学サンペレ大学の教授が昨年暮れに札幌に来て衝撃的なことを言っていましたが、給料は国から一銭ももらっていないというのです。研究室の家賃や電話代は自分で払っています、国からもらっているのは肩書きだけで、しかも2年契約だそうです。
 お金は委託研究で集め、7人の大学院生をまかなっているようで、彼は自分のことをプロフェッサーというよりもアントレプレナーだと思うという話をしていました。地域研究が専門のこの教授は論文の中で、これまではガバメントの時代であったがこれからはガバナンスの時代であると言っています。

 これまでのようなお役所タイプ、旗振り役型、すなわち企画をしてそれに付いて来なさいというタイプではなくて、これからは民間の活力、イニシアティブを支援していくことが行政のやり方だと指摘しているのです。日本にも全く当てはまることだと思います。
 アメリカの場合は革命的な技術開発を狙っているケースが多いようですが、北欧の場合は応用の技術を狙っているケースが多いようです。アメリカが狙っているのがリーダーだとしたら、北欧の場合はフォロアーと言ってもいいかもしれません。
 ハイテクパークに入居している企業はシリコンバレーの場合などは大学の研究者が兼業で会社をやっているケースが多いようですが、北欧では研究者ではなくてエンジニア、日本で言えば技術系の大学院を出た人が中心になっています。

 ノキアやエリクソンにしても、ユーザーとしてのアプリケーションの技術だけで世界を相手に出来る技術が見付かるのです。アメリカ型の技術開発はリスクが大きいのですが、北欧型はリスクが小さい。企業の支援システムが徹底しておりオールではこれまで倒産したのは2,3社しかございません。

 実際に起業する場合はバーチャルにカスタマーまで見つけさせるなどの用意周到なシュミレーションを行っています。
 シュンペーターはイノベーションについて、製品のイノベーション・プロセスのイノベーション・新しいマーケットや仕入先を見つけること・新しい組織の4つをあげています。アメリカの場合は新しい商品・技術だけにイノベーションを集中させているような気がいたします。

 ところで、北海道経済を見ますと、官依存体質で製造業の基盤に弱いという特徴があります。北海道を一つの国と見ますと北海道から輸出出来るものが非常に少ない。
 地域でみると2兆4,600億円の赤字を抱えています。研究開発に対する投資も少ない。と、いうことで民主導において産業クラスターを創造しようという動きが進んでいます。
 1996年の2月に研究会がスタートしてマスタープラン、アクションプランが97年に出来ました。また、北大の中に北海道・札幌市・民間が資金を出して融合センターという、産学官がコラボレーションを促進する施設の建設がスタートしました。
 国立大学の施設を国でなく地域のために使わせる新しい法律も作りました。その適用第一号です。そして具体的なプロジェクト・地域でのクラスター作りが進んでいます。まず食の部門でのアプローチや道内に9つの地域産業クラスターの研究会がスタートしました。
 以上北欧地域の地域活性化と産学連携の取組を中心にお話いたしました。

「草間」私どもも三河スマートバレーネットワークを作ってシリコンバレーモデルを参考に地域活性化をしようと考えておりますが、もっと日本にあったモデルがあるのではないかと思っていましたが、フィンランドのモデルを知りましたので是非川崎先生にお話をお伺いしたいとお呼びいたしました。
 時間も押していますのでご質問は懇親会の折にお願いして次の講演に移らさせていただきます。
 3番目は名古屋外国語大学国際経営学部教授の柴田祐作先生からご講演いただきます。先生は三河スマートバレーネットワークのメンバーでもございまして常日頃我々を叱咤激励していただいておりますキーパーソンです。では先生よろしくお願いいたします。

3.「日米の地域活性化と産学連携の取組」
 名古屋外国語大学 国際経営学部 教授 柴田 祐作氏

 ご紹介いただいた柴田です。皆さんのところに3種類の資料をお配りしました。標題は日米の地域活性化と産学連携の取組といたしましたが、私は日本やアメリカのことも地域活性化のことも分かっていませんので、そういうことを包括的にお話できないし、お聞きになっても役に立たない気がします。
 今日の崔先生、川崎先生のお話はめったに聞けないような密度の高いお話であったように思います。大変インパクトを与えていただいて我々はこれを危機感、バネにしてこれからどうするかを私も考えました。
 皆さんは企業において責任を持ってみえますので、私などより多くの危機感を持たれたと思います。出来たらこうしたことを聞きたい、あるいは一緒に考えたいというものがございましたら途中で時間を設けますので一緒に考えてみたいと思います。

 とりあえず皆さんからの質問を誘き出すための発言を最初にしたいと思います。途中でも結構ですので発言して止めていただきたいと思います。その方が調子が出ると思いますので。
 さて、シリコンバレーモデルはあまり評判が良くないようですが、たまたま昨日まで、シリコンバレーの近くに2週間ほど出掛けて参りました。昨日午後4時に帰ってきたばかりでアメリカかぶれしているかもしれませんが、シリコンバレーについて私が感じていることを少しお話いたします。
 それから、今日は新事業開発というよりも地域活性化という共通のキーワードで進んでいますが、地域開発についての新しい動きについてごく簡単に触れてみたいと思います。その中でも大学の役割、企業にああしろこうしろという前に、大学に何が出来るか、日本の大学は欧米の大学とは違うのかどうかなど、特に我々の地元でどういう可能性があるのかなどを中心に考えていきたいと思います。
 大学審議会の答申が具体的なインパクトを持つとは思いませんが、彼らが提案している21世紀の大学像というのは今まで議論されたことに近いと思いますので、そのあたりを私の発言の中心としたいと思います。

 川崎先生のお話を聞いて、北欧と日本は似ているということでしたが、確かにそうだと思うのですが、ちょっと違うなというところもございました。
 私自身を見ると日本人でも北欧人でもない、ひょっとしたらアメリカ人に近いのかなという感じもしながら聞きました。
 私は1996年に岡崎に来て3年になるのですがその前は46年間関東で過ごしました。その前の19年間は岡崎で生まれて岡崎で育ちました。岡崎は古い町ですからよそ者はなかなか溶け込まない。
 資料の最初に経歴をのせたのは、私も岡崎の人間ですという意味で書いたのですが、私の前の代から続いているということを一言申しあげたいと思います。

 私は大平の山奥の小美町の柴田家の16代目で、曽祖父は徳川時代の終わりにご維新に際して起業家の走りをやりました。三河木綿は有名でしたがインド綿に押されて新しい産業を興す努力をしました。
 綿花の代わりに桑を育てて蚕を飼って生糸を作りました。岡崎、額田の蚕糸業史を読むと明治から大正にかけての蚕糸業は昭和の自動車業であると書いてありましたが、私の曽祖父は早い時期にやって失敗して十王に移転しました。私はそこで生まれましたが、戦災の時からまた小美に帰って今も住んでいます。
 私の住んでいた所は曽祖父の妻の姉妹が嫁いだ安藤家という古い家系の所で、鋳造工場をやっていました。服部工業の初代は安藤鋳造で修行をされたようです。私も岡崎の人間で岡崎で死んで行く人間ですのでよろしくお願いしますというごあいさつでした。

 次にシリコンバレーの近くに2週間行って参りましたとお話しましたが、シリコンバレーやアメリカの地域活性化の研究に行った訳ではなく、サンフランシスコの南のぺブルビーチでゴルフをされた方もおみえでしょうし、ジャズフェスティバルで有名なモントレーという所へ行ってきました。
 私の大学も英語を売り物にしており、学生は4週間程そこで勉強しておりますが私は2週間で帰って来ました。スマートバレーモデルだけじゃないよというお話もあるかもしれませんが、たまたまスマートバレーから帰って参りましたのでスマートバレーについて少し申しあげたいと思います。

 本論に入りますが、シリコンバレーについての勉強会は1997年のダグ・ヘントン氏の話から始まりました。同氏はシリコンバレーの民間側から作った地域開発局あるいはコーディネーターの役割を果たしたグループの事務局長でしたが、そのスマートバレー公社の副会長をやったのがスタンフォード大学の名誉教授のビル・ミラー氏で、去年の4月に名古屋に来て講演されました。
 その時の衝撃的な発言としてスマートバレー公社は目的を達したから去年の12月で解散するというお話でした。その折、県の方がどうして解散するのか、本当に何もしないのか、この後どうするのかという質問をしましたら、ビル・ミラーの答えは当初の目的を達したからだというものでした。
 当初の目的とは経済の活性化であって、将来もし必要性が起こるとすればそれは地域の経済ではなくクオリティーの問題であると言われました。川崎先生のお話によれば経済とクオリティーというのは、外的起業家と内的起業家の違いのような感じがいたします。

 我々はシリコンバレーモデルを真似したり追っかけたりするのでなく、シリコンバレーモデルを超えた先にあるものでターゲットは動いている、少し先を見て動いた方が良いと反省いたしました。
 学生に付き添って行っただけですので暇もあってテレビをを見ておりました。テレビ放送は40チャンネル位あってその中の2チャンネル位は朝から晩まで今ここでやっているような議論を流しています。
 ある番組で、先程から出ていますマイケル・ポーター教授がこれからの地域開発のあり方について話し、聞いているのは州政府の方でしたが、真剣な議論をしておりました。そこで、これからの地域開発で大事なのは2つあって、1つはカルチャーとかバリューとかの問題で全く川崎先生のお話と同じです。
 もう一つはハイヤーエデュケーションであると言っていて、それを仕切るのは連邦政府ではなくて州政府であるという話をしていました。少なくとも考え方とか議論のレベルではアメリカも北欧に近づいている、世界的に同じ方向を向いていると思いました。

 私はシリコンバレーを覗きには行きませんでしたが、時間がある限り周りの人間にシリコンバレーについて話を聞きました。
 その中から2つ報告しますと、1つは提携していますモントレー国際大学院大学の経営学部の先生が「シリコンバレーの人達は昔は連邦政府から認められていなくてコミュニケーションも断絶していた、最近コミュニケーションが出来るようになった。」と、言っていました。
 つまり一人前として連邦政府も相手にするようになったということです。ただし、今でも国防技術・軍事技術の漏洩については意見が合わない、東海岸と西海岸では意見が合わないということでした。
 また、シリコンバレーの成功はあそこがアメリカでもユニークな場所であって、ユニークなポイントがいくつか組み合わさって成功例が出たのであってアメリカにおいても他の地域では成功しなかっただろうということも聞きました。

 もう一つ、経済的な成功だけでは足りないということについて、女子学生が面白いことを言っていました。それは、あそこは40年前まで何も無かった所で果物の木しか無かった所ですが、今は人口がカリフォルニア州で3番目すなわち1番がロサンジェルス、2番がサンディエゴ、3番がシリコンバレー、4番がサンフランシスコだという程成長してビルなどが建ち並んだのですが、逆に住む家が無くて働いている人は遠くから通勤しているが道路などインフラの整備が悪いという話でした。
 また、成功者は非常に成功していますが、失敗者も多くてその人達は惨めな状況で、ソフト・ハード両方含めて弱者を救うことが大問題で、政府がではなくボランティア的に弱い人を救済することをやり始めています。
 地域活性化についてもう少しマクロにグローバルに見ると、北欧にも地域開発局のようなファンクションはあるでしょう、それを担うある種の組織もあるでしょうがそれはどんなものでしょうかと川崎先生にお尋ねしたかったのですが。

 グローバルな地域開発についての研究センターがもう25年程も前から国連の機関として名古屋にあるのをご存知無い方が多いと思います。今も活躍していますが経済的にピンチのようですが、去年の10月に世界の地域開発の政策を議論するグローバルフォーラムをやりました。
 私は1日を除いて4日間出席しましたが、「地域開発の方向が今全く変わってしまった。考え方というかパラダイムというか、目標も変えなければならない、つまり経済だけでなく環境とかを考えなくてはいけない。
 新しい地域開発政策の問題を解決するためには、価値感とか宗教とかまで考えるようなフレームワークが必要であろう。」と、カナダのマギー教授が言っていまして、5日間議論してもその結論は出ませんでした。
 そこで、お2人の先生が指摘されたように、大学の存在が非常に大きい。キックオフセミナーでも岡崎大学懇話会の4大学の学長先生がおっしゃられた環境の問題とかが大きいと思います。大学が提供できる機能について話を進めたいと思いますが、川崎先生何かございますか、どうぞ。

「川崎」北欧では地域開発の担当について国の機関もございますが一口で言えば、国の役割はヨーロッパでは急激に減少していると思います。どうしてかと言うとEUの市場統合で、ヨーロッパの意思決定はブラッセルでされることになる、それぞれの国の役割は小さくなってくるということです。
 ブラッセル、つまりEUがいろんな地域開発に補助金を出しているのはご存知だと思いますが、最近のヨーロッパではインターナショナルというよりもインターリージョナルという言葉の方がメインとなっています。
 具体的な動きは,自治体の広域連合が日本でも議論されていますが、向こうでは当たり前となっている。そういう意味でも地域開発について意思決定をしたり議論をしたりするところが国から地域に移っているのが現状かと思います。

「柴田」他になければ先に進みますが、私の職業の経験からは言えないのですが学会について書いたように学問として少し勉強しておりますので申します。
 1月7日に名古屋でエコミュニティという話をされました通産省の加藤さんはずっとシリコンバレーの調査をして紹介されてきた方ですが、資料の最初は1992年から97年頃までのビジョンで、皆さんよくご存知だと思います。
 さらにシリコンバレーの新しい理論は一言で言えばサスティナビリティ(将来世代に負担を残すことなく現世代のニーズを充足し持続的な発展を図る)のようなもので、産官学の協力で作り去年10月に発表されたばかりのものです。

 これも一種のクラスターの表現で、このグループからも何名かが出席されましたので資料をお持ちの方もみえると思います。
 加藤さんは日本型次世代情報都市社会のイメージを独立に作ってみえまして、加藤さんの自慢はシリコンバレーの新しいビジョンとほとんど同じだということだったと思います。彼はこういう新しい地域活性化をお金の面で支援するシステムを考えてみえまして、それにエコミュニティという名前を付けたようです。
 加藤さんを呼んできたのは開発銀行ですが、開発銀行も衣替えをすると言っていましたのでお金を引き出す可能性があるのではと指摘しておきます。

 それから大学改革の動向ですが、大学審議会がこれからの大学改革−個性が輝く大学を目指してと言っていますが川崎先生と同様に私もアメリカの田舎の大学で2週間学生と一緒に過ごしてみて学生の意識が全然違うということを改めて痛感してきました。
 ところで話が戻りますが、アメリカの各州の知事が年に一度行う施政方針演説をずっと流しているチャンネルがアメリカでありましたが、その中から一つだけあげると、ほとんどの知事が教育改革を最重点にあげていました。
 どうしてかは、これからの国際競争力は安く早く作るだけでなくて頭を使うことがポイントそれも総合的な頭が必要だということです。それを担い得る人材づくりは広い意味では教育であるということです。

 最後に皆さんと一緒に考えたいのは。それは我々が知っている大学かと言うとそうではなくて、いかにしてこれから作っていけるかということです。
 しかし、それ位のことは誰も分かっていてどこにでも有るのですが、例えば日本では筑波研究学園都市、関西にもありますが、中部は非常に弱いです。愛知県では名古屋東部研究学園都市というのを作っていますが、そこが愛知県なり中部の地域開発・地域活性化を担ってくれるという予想は出来ません。
 しかし、諦める訳にはいかないので岡崎では国立共同研究機構というものもございますが、北欧ではバイオを起爆剤に使っている所もある様なのでそれをどうするかという問題は大きなものがあります。そのあたりを私の論文にも書いていますので参考にしてください。

 もう一つ指摘したいのは、文化が問題だということです。オープンでフラットな社会、産と学と官が一体となって協力する、それはもっともですが文化が違うから真似できないという話がございます。
   では我々が持っている文化は何か、我々が持っている文化をベースに何か突破口を見つけることが出来ないか。我々と同じ文化を持っている所が何か新しい事をやったら参考になるだろうと考えていますが無限の時間が掛かりそうなので問題指摘にとどめておきます。

 そこについて、面白いことをお2人の方が言っています。一人は小原惇氏がレッツという集まりを作ってみえまして、ここ三河は縄文文化と弥生文化の境目で結果的に二つの異なる文化が融合した日本で唯一の遺伝子を備えた地域である。ここから新しい文化が生まれると言っています。
 これと同様なことを伊藤達雄氏がおっしゃっています。ひょっとしたら、未来に向けて走る時にそれが一つの勇気になるかもしれません。

 川崎さんの使われた言葉と同じ言葉ですが、21世紀に必要なのはまさ内的起業精神が要求される訳で、北欧だからではなく時代の趨勢だろうと思います。日本では学生は高校までで完全にだめにされている気がします。
 ですから私は幼稚園か小学校の先生か、自分を変えないとだめだと気づいている境目の人を相手に教育したいと思っています。このあたりが大学改革のポイントだと思います。
 私が言いたいのは21世紀は間違い無く社会全体として「知」の再構築が要求される、経済活動・企業活動においても「知」の再構築を繰り返し行って行く必要がございます。
 今起業の方はリストラとかの苦しみがございますが、脱落する人をどう救うかは次の時代の大問題で、それを大学に期待出来ればいいのですが、社会の方も大学改革の支援をお願いしたいと思います。

 ところで、リージェント・デベロップメント・エージェンシー(地域開発局)に対する大学からのアプローチについてお話いたします。
 地域の合意形成がどうしても出来ない、総論では一致していても各論では進まないという状況を打開するのには、一つは仮でいいからプランを作ること。もう一つは大学としては力を合わせて解決できるような人間を作ること。
 実行の段階だけでなくプランを作る段階で企画をリードする能力、分担する能力、協力する能力を作ることが大学教育の責任であると思います。
以上で終わりといたします。

「草間」ご質問もあるかと思いますが時間も押していますので終わらせていただきます。先生のご講演に拍手でお礼いたしたいと思います。
これで本日のファイナルセミナーを終了といたしますが最後にコーディネーターの服部さんから一言ごあいさついたします。

「服部」3人の先生方ありがとうございました。崔先生のお話からはこれから日本も捨てたものではないなと勇気づけられました。
 川崎先生のお話の中でショッキングだったことは創造性と勇気は幼稚園から教育しなければダメという点でしたが我々もそうした考えが必要なのではと思いました。
 最後の柴田先生にはわざわざこのためにアメリカから帰ってきていただきまして本当にありがとうございました。

「草間」ありがとうございました。最後にこの事業の窓口の岡崎商工会議所の牧野専務理事から一言いただきます。

「牧野」今年度のコーディネート活動支援事業につきましては、お2人のコーディネーターの方には大変お忙しい中ありがとうございました。
 大学と民をつなぐ様々な議論を行う中で卵も育っている状況です。この事業は単年度ごとのものですが次年度も立候補して続けて取り組みたいと思っております。

 提案公募型というのが国の流行言葉のようで、いろんなプロジェクトを出させてお上が審査をして実行する訳ですが、新しい年度になると申請を出させて実際認可が降りてくるのが半年後となるので、成果は半年であげなければいけないという繰り返しを要求している訳です。
 ですから、官の役割は民が本当の意味で活動出来る場を提供してもらえないかというのが私どもの率直な感想です。このような活動を通じてそんな矛盾点も指摘しながら地域活性化につなげていけたらと考えています。

 今年度の事業は今日のファイナルセミナーで終わりとなりますがお2人のコーディネーターの方には大変お世話になりました。
 また、いろいろお世話いただきました三河スマートバレーネットワークのメンバーの方、岡崎大学懇話会のメンバーの先生方、参画いただいた企業の皆さん、お世話になりました。ありがとうございました。

「草間」これで終了いたします。引き続いて4階で交流会を行いますので是非ご参加ください。
(終了後、交流会を開催)

以上