創立110周年記念講演会 講演録 要約版

「2003年 日本経済の展望」

講師:株式会社野村総合研究所 主席エコノミスト 植草一秀 氏

 バブル崩壊後、日本経済は13年に及ぶ混迷を続けている。これは、諸外国の不況脱出までの期間に比べてもかなり長いものといえる。
 いま、日本経済が抱える3つの課題は、1.不況からの脱却、2.財政赤字の是正、3.不良債権処理である。正しい歴史認識の下に景気経済の推移を見極めると、長期不況をもたらしたのは「景気対策」ではなく「デフレ政策」にあるということが分かる。経済の力が弱い局面でとるべき手立ては、「南側高原斜面横断ルート」ともいうべき「景気回復を優先し、財政・不良再建の改善を図る」ものであるべきで、「成長無くして改革無し」の路線を採用すべきだ。
 正しい政策路線は、1.適切なマクロ経済政策で2〜3%の民間需要主導の経済成長軌道を確保し、2.経済成長を維持しながら不良再建問題の抜本処理、財政健全化プログラムを実行することだ。
 そこで求められる総合経済政策は、1.「景気回復優先」を宣言し、政策路線を明確に転換すること、2.真水5兆円の内需支援策を策定し、経済・金融の流れを転換させること、3.財政の「逆噴射」を抑止し、2〜3%の民需主導経済軌道を誘導すること、4.財政健全化10ヵ年プログラムを提示し、具体策を実行すること、5.日銀の信用を失墜させる調整インフレ政策を排除し、金融緩和政策を維持すること、等である。
 こうした環境下での企業戦略は、1.ビジネスプロセスの再構築、ITの最大活用、コスト構造の刷新など、を実行すること、2.生産拠点や資材調達拠点のグローバル展開をすすめること、3.拡大するビジネスチャンスを貪欲に獲得しようとするアニマル・スピリットを持つことであろう。
 2003年のリスクファクターは、1.イラク戦争の長期化、2.北朝鮮問題、3.欧州の景気後退であり、2003年のキーワードは、「陰極まって陽に転ず」である。今年は厳しい年となるが、年後半から景気は反転すると見ている。            (文責:記者)

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