近年、経済のグローバル化が急速に進むなかで、資本移動の自由化や情報化の進展もあり、国境を意識しないボーダレスの企業活動が増加しています。そして、激しい競争が行われるなかで、生き残りのために市場の確保やコストの削減は必要不可欠になっています。
 特に日本においては、1980年代後半の円高が進んだ時期に、アジアを中心に海外進出を果たす企業、特に製造業が急増しました。なかでも、中国では現地法人の売上高が大きく増加しています。
 そこで、今回は中国に生産拠点を設け操業されている会員事業所の方に、進出の目的・事業運営の留意点・今後の事業展開等について伺いました。

富士ファイン株式会社

 代表取締役 伊藤公正 氏


○中国に進出された目的は。

 1990年に中国大連経済技術開発区に100%独資で会社を設立しました。設立当初は50人ほどの従業員で軌道に乗るまで3年はかかりましたが今や従業員は1,400人を数え、中国ならびに海外への生産拠点としてフル稼動しています。大連以外にも香港・上海・深センに営業所や工場を設けました。進出の目的は、中国を市場として捉えて中国で販売するために現地生産をすることでした。製品の種類によっては日本に輸出しているモノもありますが、電線については現地生産の100%を中国で販売しています。


○中国で操業されて12年経ちました。

 操業当初から見ますとまさに激動の10年でした。以前は国営企業が中国を牽引していましたが、今では若く優秀なリーダーが引っ張る民営会社がどんどん出来ています。何より主役を担っている人材が日本と比べて若いんですよね。日本と違い年功序列といった縦割りの組織が少ないため、個人の競争意識が高く、社内での競争が会社の競争意識に繋がっているように強く感じます。また、中国の市場性が出始めたことにより、生産・販売拠点としての進出が一層増えると思います。中国の脅威と成り得る一つにソフト産業が挙げられるのではないでしょうか。特に北京は政治の中心地であり、北京大学・精華大学など優秀な人材の宝庫であるためIT産業を中心に急成長しています。


○事業運営上の留意点、成功させるポイントは。

 進出の目的を明確にしたうえで、進出地域や進出形態を決めなければなりません。そしてこれからはコストダウンを求めるだけの進出では難しいと思います。中国の市場を見据えた事業展開が必要になるのではないでしょうか。
 また、今の中国は昔と違い民間主導でがんばっている中小企業が非常に増えています。そのことからも中国内では非常に激しい競争があり、中国で成功する最も重要なファクターとして、高品質・信頼性の確保が挙げられます。“人件費や原材料が安い”だけの時代は終わり、優秀な人材を使った付加価値の高い製品を造っていかないと淘汰されてしまいますね。
 但し、そこまでレベルを引き上げて維持するにはたくさんのエネルギーを使います。現地の人材をいかに育成・教育するかが大きなポイントであり、何事も“継続”することが大切です。富士ファインでは社員教育の一環として中国から社員を今までに40人ほど研修生として日本に受け入れました。日本からも多くの社員を海外に派遣・駐在させており、日本と中国がお互いの考えを理解させるため、コミュニケーションを図り、刺激し合い、切磋琢磨し、それが結果として優秀な人材の育成に繋がっていると思います。
 そうは言いながらも、中国市場に対して完全には安心できません。市場を開放しているもののあくまで社会主義体制の枠の中であり、これがもし資本主義に移行した場合に中国が国として機能するかどうか、生産・販売を1つの国に集中する危険性は否めません。外国で事業を営んでいることを忘れず、危機管理の意識を常に持つことが必要です。
 また岡崎には、中国との相互理解と友好を深めることを目的とした「岡崎市日中友好協会」がありますので興味のある方はぜひご入会いただければと思います。

<岡崎市日本中国友好協会とは>

 県下の日本中国友好協会の組織会員の運動と連携し、日中友好を願う各界各層の人々が結集する市民組織です。

 個人会費 12,000円/年     団体会費 30,000円以上/年

会長 富士ファイン株式会社 代表取締役 伊藤公正
連絡先 事務局長 小林邦夫(TEL21−8224)



 澤田紡績株式会社

 代表取締役 澤田守弘 氏


 常熟華弘紡績有限公司




○中国に進出された目的は、そしてなぜ常熟市(江蘇省)を選択されたのですか。

 低廉な原材料や労働力を求めた“コストダウンによる競争力強化”を目的に進出し、工場が正式に稼働してから10年が経ちます。稼働初期の頃は中国で造った製品は全て日本で販売していました。しかし、日本での需要が落ち込むなか、“中国およびアジアで売れる”ことが分かり、今では製品の8割以上を中国およびアジアで販売しています。
 工場を建設した場所は江蘇省の常熟という街で、上海からクルマで1時間半ほどの場所です。進出する際に、中国側から「繊維業が盛んでアクセスの良い地域」として27ヶ所の候補地を挙げていただき、その中から今の場所を選定しました。進出当時は常熟市には日系企業がなく不安もありましたが、上海から近くアクセスが良いことが大きな魅力でしたね。


○事業運営上の留意点、成功させるポイントは。

 日本と同じ考え方ではダメです。操業から10年経ちますが、国民性・価値観の違いを痛感しました。日本では当たり前のことも中国では違うんですよね。「郷に入れば郷に従え」という言葉がありますが、“日本とは違う国”で事業を運営していることを常に念頭において、先入観を捨てて正確な情報をもとに正しい認識をもって接することが一番大事だと思います。


○今後の事業展開は。

 私どもの会社では近い将来、中国で造った製品の全てを中国およびアジアで販売するようになるのではないでしょうか。進出当時は“生きるための中国投資”でした。それが今では“中国無くしてビジネスは成り立たない”と考えていますし、中国のマーケットは非常に大きく、とても魅力があります。実際、中国の工場は3交替24時間体制で稼働させていますがそれでも需要に追いつきません。当初は、商圏=日本として取り組んできましたが、今後は「商圏=アジア」として事業展開をしていきます。




 太田油脂株式会社

  常務取締役営業本部長

     太田吉昭 氏

 
 
 ▲大連太田食品有限公司

○中国に進出された目的は、そしてなぜ大連市(遼寧省)を選択されたのですか。

 もともと中国とは取引があり、8年程前からは合作として現地工場に技術指導をしてきました。しかし、製品の信頼性や品質を高めるためにはやはり「太田油脂ブランド」で製造・販売することが重要と考え、今回、大連市に法人を設立し今年2月より乾燥ワカメの生産を主とする水産加工業を開始しました。
 現在、日本で消費されるワカメの8割が輸入に依存し、そのうちの7割を中国製品が占めています。北緯42度に位置する大連地区はわかめの生産に非常に適した場所で、中国のなかでも質のよいワカメが大量にとれる地域です。その質のよいワカメをそのまま現地で加工することにより、ワカメの選別作業にかかる人件費や最終形態(製品の状態)の輸入による輸送コストの削減が実現できるのではないかと考えています。


○事業運営上の留意点、成功させるポイントは。

 進出の際、中国の政情を気にされる方も多いと思います。しかし、その問題を気にし過ぎると先に進めなくなりますし、関連している企業の皆さんが平等に抱える問題と割り切って事業を進めることが必要です。
 賃金については、内陸部と沿岸部との格差が大きく今後の動向が気になりますが、大連に関しては労働力過多の傾向が強く人件費の跳ね上がりについては特に心配していません。また非常に優秀な人材も多く、みなさん夢をもって働いているので勤務態度には非常に目を見張るものがあります。国自体もWTOに加盟して海外の企業に対し積極的に門戸を開き外資の獲得を進めていますので、以前に比べて進出し易くなったのではないでしょうか。私どもも申請してから3週間で法人が設立でき、予想以上に受入がスムーズに進みました。


○今後の事業展開は。

 中国北部で採取される菜種や荏ゴマの種子を30年ほど前から輸入していますが、このなかでも実際に油になるのはわずか2、3割です。これを現地工場で搾油し、ワカメ同様に製品化した形で日本に持ち帰り、残った7割を中国国内で再利用できるようになればと考えています。

◇ も ど る